ここのところ硬い話題が続いているので、柔らかい話題をと思っていたところ、先日、フィリピンの日刊紙デイリー・インクワイヤラーのウェブ版を読んでいると、気になる記事を目にしたので、その記事をご紹介する事にしました。
 その記事というのは、こちらです。↓
http://newsinfo.inq7.net/inquirerheadlines/nation/view_article.php?article_id=28543

 今年の9月9日、アジアヨーロッパ首脳会議に先立って、フィンランドのヘルシンキで、フィリピンのアロヨ大統領と日本の当時の首相である小泉総理の間で「日本・フィリピン経済連携協定(以後JPEPA: Japan-Philippines Economic Partnership Agreement)」に署名が交わされました。
 経済連携協定(EPA)というのは、自由貿易協定(FTA: Free Trade Agreement)が主にモノに対する関税や量的制限を撤廃して自由な貿易を行なう事を目的としているのに対して、それに加える形で、ヒトやカネの行き来に対する障壁を取り払ったり、経済制度の調整を行なったりと、異なる国の間でのより幅広い経済面の融合を目指しているものと言えます。(詳しくはこちらを御覧下さい。→http://www.murc.jp/report/research/hayawakari/2004/20050128_2.pdf)

 今回のJPEPAでは、フィリピン側の「日本からの鉄鋼や自動車などへの輸入障壁の軽減」や、日本側の「フィリピンからの農水産業生産物、例えば、砂糖、バナナ、パイナップルなどに対する輸入自由化」などと共に、以前ここでも取り上げた看護士・介護士に対する日本労働市場の部分的開放(http://grtaytay.hp.infoseek.co.jp/smlltalk_04_10_01-31.htm#smlltalk_2004_11_25)も含まれているのですが、先のインクワイヤラーによると、今まで日本やフィリピンのマスコミで報道されてきたようなそれらの項目以外に、日本からフィリピンへの有害な廃棄物の輸出が含まれているというのです。以下、その記事の概略をご紹介します。

 記事によると、トーマス・アキノ首席貿易政務次官が、日本・フィリピン経済連携協定にはかなり広範囲の廃棄物の輸入が含まれているが、それはすべて規定内の廃棄物であると同誌に語り、ミチェル・デフェンソー前環境大臣も、協定には有害で持込が禁止されている廃棄物は含まれていないと、インクワイヤラーに対して携帯メールで答えたとの事。
 が、という事は、翻って言えば、違法ではないにしても、協定には廃棄物の輸出入が含まれている、という事になります。

 これに対して、環境保護団体などは

私たちは(日本人を健康にするための)看護士や介護士を送り出す代わりに、有害な廃棄物を輸入しなければならないのか?

と怒りを露にし、協定には焼却炉で処理された灰や医療廃棄物など、人体や環境に有害な物質が含まれているとして(http://newsinfo.inq7.net/inquirerheadlines/nation/view_article.php?article_id=28567)、上院に協定の批准を拒否するよう要請。
 また、パーティー・リスト組織の1つであるAKBAYANらも、貿易産業省に対して、議会にあるグローバリゼーションに関する特別委員会に協定の草案のコピーを提出させ、すべての協定内容が明らかになるまで、貿易産業省が協定に署名したり、大統領に渡すのを阻止するよう、フィリピン最高裁に要請していたと言います。

 私が最初にこのインクワイヤラーの記事を読んだ時、真っ先に思い出したのが、今年9月、象牙海岸で大規模な健康被害を起こした有毒廃棄物の不法投棄でした(http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/5354530.stm)。もし、協定に有害廃棄物の輸出入が含まれているなら、十分に廃棄物処理施設が整っていないフィリピンで、遠からず同様の被害が出る事は火を見るより明らかであると思われます。

 そこで、ネットでこの協定に関する情報を検索し、以下のサイト(註1・2)で日本の外務省が公表している協定の内容にざっと目を通してみると、協定の概略を示した註1には、廃棄物に関する記述は見当たらなかったものの、協定文書(註2)の「第二十九条 原産品」の(i)(j)(k)には、確かに廃棄物と思われる物品が「原産品」に含まれるように書かれています。

註1
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j_asean/philippines/pdfs/gaiyo.pdf
註2
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j_asean/philippines/pdfs/mokuji.pdf

 これに対して、フィリピンの日本大使館は31日になって、日本政府もフィリピン政府も有害廃棄物の輸出入を厳しく規制しているバーゼル条約(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB%E6%9D%A1%E7%B4%84)を批准しており、その精神に則って、違法な有害物質を輸出入する事はなく、そのような懸念は誤解に基づくものであるとの声明を発表しましたが(http://newsinfo.inq7.net/inquirerheadlines/nation/view_article.php?article_id=29653)、それならば、なぜ上記のような廃棄物と思われる物品を「原産品」として協定に盛り込んだのか、疑問が残ります。

 翌11月1日、デイリー・インクワイヤラーは再度ウェブ版で、アメリカのシアトルに拠点を置き、バーゼル条約が適切に履行されているかを監視しているBAN(Basel Action Network)という団体が声明を出し、その中で、30日に出されたこの件に関する日本政府の発表は、人々を誤解に導くもの(misleading)であり、フィリピンの上院は有害廃棄物が「原産品」リストから削除されない限り、JPEPAの批准を拒否するべきであると強く訴えている、と伝えています。(http://newsinfo.inq7.net/inquirerheadlines/nation/view_article.php?article_id=29884)

 火のない所に煙は立たない、と言いますが、この問題は日本大使館の簡単な声明だけでは、おいそれと沈静化しそうにありません。安倍首相の言う「美しい国」とは、廃棄物を他国へ輸出して、自国を綺麗に保つ事を言うのでしょうか?その「美しい国」に住む日本人の1人として、これからもこの問題を注視していきたいと思います。

                                 パペル(Papel)