前回の続きです。

 さて、更新が毎日ではないので、妙に引っ張ってしまいましたが、前回は、核武装するのに、一体幾らかかるの?というところで話が終わっていました。全くの専門外なので、正直なところ正確には分かりませんが、ブルッキングス協会という社会科学系の調査や政策提言を行うシンクタンクの調査によれば(http://www.brook.edu/fp/projects/nucwcost/schwartz.htm)、アメリカが1940年から1996年までの56年間に核兵器計画に使ったのが、5.5兆ドル(649兆円)。つまり、平均すれば、年間982億ドル(11兆5892億円)ずつ使っている事になります。それだけ使って1万発の核弾頭と、それを目標に運ぶ手段を開発・製造・管理しているとして、日本の核武装の規模をその百分の一程度と考えて、単純計算すれば、日本の核武装計画の費用は年間1158億9285万円。
 もちろん、本当はこんな簡単な計算で出るはずはなく、アメリカが核兵器を開発した頃とは技術も格段に進歩しているでしょうし、後発の優位性もあるので、開発費はアメリカの核兵器計画がスタートした時ほどはかからないとは思いますが、それでも、前述の初期費用は必要な訳で、核兵器の装備が整うまでは、これよりは多目にかかるかもしれませんし、だからと言って通常兵器を削減する訳にはいきませんので、この分は余分にかかる計算になるのではないでしょうか。
 しかし、この数字は今年度の防衛費全体(なんと4兆8139億円!)から見れば、わずか2.4%に過ぎないのも事実。だからたいした事ないよ、という見方もできるのかもしれませんが、同年の中小企業対策費(1616億円)と比べてみると、日本企業全体の99%以上を占め、従業者数で見れば、全従業者数の約80%を占める(http://www.jasme.go.jp/jpn/summary/council/1_1.pdf)中小企業の対策費に迫るのですから、馬鹿にできない規模と言えるかもしれません。(http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/002.htm)それにしても、中小企業対策費って、防衛費と比べればホント微々たるものなんですね。(溜息)

 …などと溜息ついてる場合ではありません。では、これだけ使って、効果の程はと言えば、評価するのが大変難しいのですが、元々、現在の核武装論議は、北朝鮮というかなり異質な国家が核保有と核実験成功を宣言したところから盛んになった訳ですから、北朝鮮の体制が変わり、その保有する核兵器が国際社会の管理下に置かれれば、そもそも核武装など必要なのか?という疑問が沸いてきます。いや、中国が核を持っているのが問題だ、と言う方もおられるかもしれませんが、最大の貿易相手国である日本を中国が核兵器で攻撃するとは、俄かには考えがたいと思うのですが、如何でしょう?
 さらにもっと根本的な疑問として、現在の世界情勢の中で、国家が核兵器を戦闘に使用する事ができるのか?という疑問があります。今日のようにグローバライゼーションが進み、地球上のあらゆる地域が経済という張り巡らされた網に絡みとられている状態で核兵器を用いるのは、テロリストか北朝鮮のような例外的な国家以外考えられません。

 それでも、核を持っている国で攻撃された国はない、という声も聞きますが、核不拡散防止条約に批准していないイスラエルが、核弾頭を保有している事はかなり確実だと考えられており、1979年には既に南アフリカと合同で核実験をしたとも言われています。イスラエル当局はそれを肯定も否定もしていません。で、推計ではイスラエルは現在、75から200の核弾頭を保有すると共に、それを搭載可能なミサイルも有しているとされています。もちろん周辺のアラブ諸国はその事を熟知していて、イランの核開発もその事と大いに関係があります。それでもなお、湾岸戦争の時はイラクにスカッドミサイルの攻撃を受けましたし、つい先頃もレバノンのヒズボラからロケット弾攻撃を受けました。それらの相次ぐ攻撃にもかかわらず、イスラエルはそれに対抗して核兵器を使用する事はありませんでした。この事は、核兵器は持っていても、ほとんど使用できない兵器になっているという事を意味しているように思われます。

 一方で、これら世界情勢の変化すべてを括弧にいれて、もし日本が核武装するなら、20ほどあると言われる、核武装可能な国や核兵器計画を持っていた国がそれに続く可能性があるとも言われており、もし、それだけたくさんの国が核兵器を持った場合、米ソという核兵器超大国が軍拡にしのぎを削る事で作り出した冷戦時代と同様に、核兵器が抑止力として機能するのか、かなり疑問があります。それはちょうど、多くの人が拳銃を持っているアメリカ社会が安全であるとは言えないように。

 前述したように、国家が核兵器を使用する事が難しくなっている一方で、特にアメリカ政府が神経を尖らせている、現代の最も大きな核の危機は、核兵器や核技術、あるいは、核兵器を製造するための材料や製造機械が闇で取引され、それが国家というような容易に標的にできる対象ではなく、例えば、テロリストのような何処にいるのか特定する事が難しく、自らの死を厭わない集団の手に落ちる事だと思われます。それを防ぐためには、現在ある核兵器を国際社会の管理下に置き、その新たなる開発の動きを禁止する事を国際社会共通の認識とする以外に道はありません。

 北朝鮮と並んで、目下、最大の核の脅威はイランの核開発です。もし、イランが核を持てば、それは中東にイスラエルとイランという敵対する2つの核兵器保有国が生まれる可能性が高まる事を意味します。それはほぼ間違いなく、同地域を極度の緊張状態に陥れる事でしょう。

 このような状況の中、日本の現首相が非核三原則に変更はない、と明言した事は、大変大きな意味があると思われます。日本政府には、これからもその姿勢を堅持していく事を願ってやみません。

 ちなみに、日本の核武装論争については、以下にかなり詳述されていますので、ご参照下さい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E6%AD%A6%E8%A3%85%E8%AB%96

                                 パペル(Papel)