染めと織の万葉慕情80   よりよい紐解け我妹 | foo-d 風土

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 染めと織の万葉慕情80

  よりよい紐解け我妹

   1983/10/21 吉田たすく

 

 

 紐の歌のつづきです。

 先週につづいて巻十二にのっているからひろって見ます。別れぎわに

二人して結びあった紐は一人して解く事はありませんでした。

 又あう日のためにこの紐は結びつづけているものです。”別れを悲しぶる歌“の中の一首

 

  白たへの

   君が下紐

     我さへに

    今日結びてな

     あわむ日のため

 

 白たへのあなたの下紐をわれさへに”私まで手を添えて、今結びまし

ょう。

「二人して結び紐を一人して われは解き見じ」という歌のように、二人が二人の手と手で互に結びあう場面のようすが見えるようです。 そし

て再び、又お逢いする日のために、とっています。

二人の間にゆえあって逢えない日が長くなって、来ますと、恋しい逢い

たい気持ちがむねにこみあげて来るのです。 このせつない思いを忘れさせてくれる草がありました。“忘れ草です。

 

 真夏の白雲の浮かぶ青空の野によじれ咲く真っ赤な花びらの「カンゾウ」の花です。 この花を身に付けると、憂えを忘れる草と信じられていたのです。

  わすれ草

   わが紐につく

     時となく

    思ひ渡れば

     生けるともなし

 

 わすれ草をわが下紐にくっつけて、恋を忘れようとしているけれども、

ききめなく忘れられなくひっきりなしに恋しく思っていると、生きてい

る心持ちもしないから。という歌もあります。

 

この歌とは反対に、二人の出逢いがあって“早く紐解け、とか"さあさ

紐解きなといった歌もあります。

 

  明日よりは

   恋ひつつあらむ

     今夜だに

    早く初夜(よい)より

     紐解け我妹

 

 これは七夕の夕、牽牛が女に逢っての床入の歌ですが、明日からは又

天の川をへだてて別れ別れになってしまい、互に恋いつつ一年間すごさなくちゃならないから、今夜はよいのうちから紐解きなさいよ織女さんよ、

とたのしい会話が空から聞こえてくるようです。

 

 つぎの歌は女の家に男がたづねた夜の問答歌です。

 

  ただ一人

   寝れど寝かねて

     白栲の

    袖を笠に着

     ぬれつつぞ来し

 

  雨も降り

   夜もふけにけり

     今さらに

    君行かめやも

     紐解き設()けな

 

 ひとり寝にねつかれず、「袖を笠にしてたづねて来たよ」「雨も降ってるし夜もふけて来たからあなた今更かえらんかっていいじゃないの。さあ下紐解いて寝る仕度をしましょうよ」と万葉当時のよぱいの(結婚)のよう

すがしのばれるのです。

 

       (新匠工芸会会員、織物作家)