染めと織の万葉慕情84
秋のもみじをかざして
1983/11/18 吉田たすく
紐のつづきです。夕方の自転車での散輪で小鴨川(注1)土堤を行くと、打吹山(うつぶきやま(注2))の紅葉の美しい事。
大山(だいせん(注3))の紅葉は雄大で豪華な錦なら打吹山の紅葉は、衣装のようにまとまった華麗さです。椎の濃緑の間にさまざまな木々が多いために黄、朱、赤、金茶とその木自身の色相をこの一年の全精力で色づきつくし、それらの配置は霊の匠がなしたわざかと思われるほどであり、織師の私にはこの上もないイメージをあたえてくれるのです。
この山が夕日に染まる頃 西の大山は紫に暮れていくのです。さて、紐の歌ですが、紐の歌に紅葉をあしらった歌がありました。
こないだ古墳に色彩壁画の発見された「明日香」地方の紅葉の歌。
明日香川
黄葉(もみじ)流る
葛城(かつらぎ)の
山の木の葉は
今し散るらし
につづいて
妹が紐
解くと結びて
立田山
今こそ黄葉
はじめてありけれ
「妹が紐解くと結びて」は、立田山(注5)の「立ツ」にかかる序文で、妻と紐を解くは共寝の事で、結ぶは、共寝の朝、互に紐を結びあって朝の出立つを意味するので「立ツ」にかかるのでしょう。
立田山では丁度今もみじがはじまったところです。その詠われる”モミジ”ですが今、私達は「紅薬」と紅の字であらわします。
万葉では「黄葉」と書いて、モミジ"とよませています。現代人は多くカエデ類の真赤なモミジを愛好していますが、万葉びとたちは紅葉だけでなく、黄色く染まる落葉の美しさを大変めでたのでありましょう。
ちょうど大山のモミジがそうなので、ブナのモミジは黄色です。それにくらべ小鹿渓(注4)のモミジは、真赤なモミジですから大山以上に美しいものです。万葉に出てくるモミジでは、黄葉と記したもの、六十五首もあるのに赤葉が一首、紅葉も一首しかありません。赤色、朱色よりも黄色の方が勝っていたようです。
鳥取県のあちこちのモミジの色をよく観察してみると、やはり赤よりも黄色の多いのに気がつきます。紐の歌ではありませんがモミジの歌を数首よんでみましょう。
秋山の
黄葉を茂み
迷ひぬる
妹を求めむ
山道(ち)知らずも
妻を思ふ心と山道の黄葉のしげみにまよう気持ちを詠います。又黄葉を手折りて挿頭(かざし)髪かざりにして宴会に興をそえる歌
手折らずて
散りなば惜しと
我がおもいし
秋の黄葉を
かざしつるかも
又、清流に散りゆくモミジのはかなき美しさに、人の死を考え死の意味の枕詞にも使います。
真草刈る
荒野にはあれど
黄葉の
過ぎにし君が
形見とぞ来し
黄葉の
過きにし子等と
携はり
遊びし礎を
見れば悲しも
行く秋をおしみ、物のあわれを詠うにはもってこいの材料であったのです。
モミジを歌った歌は百首をこえて、色づく、紅にほふ、秋山の色など表現されているのです。
(新匠工芸会会員、織物作家)
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吉田たすくの生まれ育った鳥取県倉吉市は、大昔伯耆国久米郡倉吉と言い、市の中心にある打吹山の打吹城を中心に江戸時代以前からの城下町で、伯耆国の経済の中心として栄えた歴史の街です。
(挿絵は打吹山を小鴨川の土手から見たところです。写真はイメージ)
小鴨川(注1)
小鴨川は鳥取県中部(鳥取県倉吉市 江戸時代は伯耆国久米郡倉吉)を流れる大河、天神川の支流で、平安時代からの城下町で江戸の昔から倉吉の水運の拠点でもありました。私(周之介)も小さい時から、よく遊びに行き、魚釣りや魚獲り、デートコースでもあり、夏は水泳に行ったり、納涼花火大会も催されている心の川でもあります。
打吹山(うつぶきやま(注2))
伯耆国の経済の中心として栄えた倉吉のシンボル。天に帰った天女だった母に、笛を吹き、太鼓を打ち鳴らし、母親に呼びかけたという「打吹天女伝説」の残る山で、ここから打吹山と呼ばれています。
かつては打吹城が築かれ、その麓に城下町が広がっています。
きれいにお椀を伏せたような山で、標高204m。スダジイなどの原生林で覆われた自然林の宝庫。椎の実拾いや犬の散歩などよく行きました。
大山(だいせん)(注3)
中国地方最高峰の独立峰の火山で、その裾野は日本海に達しており主峰の剣ヶ峰や三鈷峰、烏ヶ山や船上山などの峰を持つ。
自宅の窓を開けると遠くに大山が望め、小学校へ入る前から毎年夏には一度は父母と雪渓のところまで行っていましたし、紅葉は特に美しく、冬のスキーなど鳥取県民に取っては心の山です。
小鹿渓(注4)
鳥取県東伯郡三朝町
世界一美しい木造建築の三徳山三仏寺奥之院「投入堂(なげいれどう)」の下を流れる三徳川の支流、小鹿川の上流に見られる約4kmにわたる渓谷で、国の名勝指定地とされています。岩肌を勢いよく流れ落ちる滝や淵、奇岩、巨岩などすばらしい景観で春は新緑、初夏はシャクナゲ、秋は紅葉と、四季折々の自然のコントラストがみごとで、鳥取県有数の人気ハイキングコースです。特に紅葉が素晴らしく、私も紅葉の時期に父と行ったことがありますし、投入堂参拝の後によくいきました。
立田山(注5)
竜田山(たつたやま)は、大阪府・京都府・奈良県の府県境にある生駒山地の最南端、信貴山の南に連なる大和川北岸の山々の総称。竜田川流域にあって紅葉が美しく、万葉集に読まれた事で有名。



