染めと織の万葉慕情42
酒の歌(1)
1983/01/28 吉田たすく
大寒に入って暖かった山陰も雪になり、やはり冬の景色になってきました。 酒はいついただいてもよいものですが、この寒中のお酒はかくべつです。
年末のお歳暮のいただきものに、ある方から京都伏見の銘酒「月の桂」のにごり酒六本と清酒六本が届きました。おかげでよい正月酒になりました。近年は県内の地酒も白いにごり酒を売り出しましたが、「月の桂」のにそり酒は戦前から京都では正月の酒としてお目出たくいただいていました。
にごり酒は作りたての酒で、酒の粕をしばらない生の酒なのです。この酒は冷たくひやでのみます。発酵中ですので酒の薫りがよく、炭酸分が舌を心地よく刺激して実に爽かなんです。真白の酒ですので、古代の白酒(しろき)もこんなんであったかもしれません。万葉に酒の歌がかなりあります。
が、ここで黒酒、白酒(くろき、しろき) の歌を読んでみましょう。
天地と
久しまでに
万代(よろづよ)に
仕へまつらむ
黒酒白酒を
この歌は正月ではなく、天平勝宝四年の十一月二十五日、その年に取れた新穀を神にささげる新嘗会(にいなべまつり)の宴で詠われた歌です。
白酒は白いにごり酒で、黒酒とは白酒にクサキの灰を加えたものを黒の歌貴と、物の本にあります。
にごった液体に灰を入れると、灰に含まれる金属塩とにごりが化合して沈澱し、透明な液になりますので黒い色ではなく、透き通った清酒だと思います。 白酒に対してこれを黒酒といったのでしょう。
そのほか、酒の歌では大伴旅人(たびと)の「酒を讃(ほ)むる歌」をあげなくてはなりません。
ある年の正月、吉田正さんや鳥大の岩永教授などと酒だけの話をする会がありました。いろいろと酒の話が酒の勢いを借りてぽんぽん出て来ましたが、そのうち万葉の酒の歌の話になりました。
私は大伴旅人の次の歌を出しました。
なかなかに
人とあらすな
酒壷に
成りにてしかも
酒に染(し)みなむ
中途半端な人間でいないで、酒壷になって酒にどっぷり染まりたいというおもしろい歌なのです。
するとすぐ、岩永教授は同じ旅人の歌を出して色紙に向かい、筆がわりにわり箸にさしみの醤油をつけて書きたされたのです。
験(しるし)なき
物を思はずば
一杯(ひとつき)の
濁れる酒を
飲むべくあるらし
甲斐もないもの思にふけるより一杯の濁酒でも飲むべきだ。
のみ助って、同じような酒の歌をおぼえているもんだ、と大笑いした事でした。
(新匠工芸会会員、織物作家)
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私の実家は父を訪ねて、芸術家や文化人等が、ほぼ毎夜来られて酒を飲みながら織物の話や芸術論をされていました。
我々子供達も同じ輪の中で食事をし、聞いていましたが、子供でも面白いんですね。
こういう場面ばかり見て育ったので、お酒大好きになって今に至っていますが、父に一番似たのは酒と舌だったかもしれません。