染めと織の万葉慕情19
七夕の歌
1982/8/13 吉田たすく
涼しい空梅雨の今年もだんだん暑くなって、七夕の季節も過ぎました。この「万葉慕情」の第一回に七夕の歌を取り上げましたが、もう一度七夕の歌を賞味してみましょう。 万葉巻十の秋の雑歌に七夕の歌が九十八首あります。 その他 巻八に山上憶良の十二首、巻九に二首と合計して百十二首にものぼります。
集中、同じ主題を歌った歌はいろいろありますが、百首以上も歌われた歌は珍しいものです。
こんなに沢山歌われたのは、その頃大陸から次々新しい文化が導入されて、憧れの国の中国の秋の夜空のロマンはすばらしく新鮮で、ハイカラなポエムとして受け取られていたのでしょう。
天の川
梶の音(と)聞こゆ
彦星と
織女(たなばたつめ)と
今夕 (こよい) 逢ふらしも
夜空にかかる天の川に、舟で行くのでしょう。 かじの音が聞こえるなんて、おつなものです。
彦星と
織女(たなばたつめ)と
今夜(こよい)逢ふ
天の河門(かわと)に
波立つなゆめ
今夜二人が逢う晩だから、天の川よ、波立たせるな、早く渡れるように。
君に逢はず
久しき時ゆ
織るはたの
白衣(しらたえごろも)
垢(あか) つくまでに
昨年の七夕から長く逢っていない。君が織ってくれた白い衣も、垢づくまでになってしまっている。今年も早く逢いたい。
織女は家で機を織りながら一年間、この夕を首を長くして待っています。
わがためと
織女(たなばたつめ)の
その屋戸に
織る白栲(しらたえ)は
織りてけむかも
わしのために織っている白い衣は、織り上がっているだろうか。 早く行って着たいものだ。
織女(たなばた)の
五百機(いそはた)立てて
織る布の
秋さり衣
誰か取り見む
織女が多くの機を立てて織る布の秋になって着る着物は、誰が取って見るのでしょうか(それは勿論わかった事、彦星です)
今年の七夕は残念ながら雨でした。
秋風の
吹きただよはす
白雲は
織女(たなばたつめ)の
天つ領巾(ひれ)かも
秋風が吹き、白雲がたなびいていて天の川は見えない。あれは織女が肩のストールをなびかせなびかせ、彦星をよんでいるのでしょう。 天つ領巾(ひれ)(ストール)に白雲をたとえ、今夕、二人のちぎりを領巾のベールの向こうに祝福するのです。
(新匠工芸会会員、織物作家)
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今日2022年8月4日は、旧暦の七月七日です。
丁度七夕の日にこれを紐解くことができて嬉しいです。
しかし今日は雨。
それでも雨のおかげで、彦星と織女(たなばたつめ)は雲の上で誰にも見られずに静かな逢瀬を楽しんでいることでしょう。
父は、織物につかれると夕刻にいつものように自転車で小鴨川へ行っていました。
川の土手から望む大山や川面を眺めて癒すのですが、初夏から今時分の 蛍が舞い、宵待草の咲き始める頃が一番好きでした。
宵待草
待てど暮らせど 来ぬひとを
宵待草の やるせなさ
今宵は月も 出ぬそうな
竹久夢二

