恵那の野の
四季七十二節
一皿に込め

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一皿の素朴な料理
残秋
あれだけ赤く映えた
恵那の紅葉も
もう終焉を過ぎていく
先日の事。
来られるお客様に恵那の晩秋を感じて頂こうと山に入り、紅葉を手折ってきましたが、もう晩期。
葉の散る季節 用意してもその多くは枯れてしまって飾れません。
また山へ出かけ、残り紅葉を見つけて手折って来ました、なんとか蕎麦懐石の日まで保ってくれと思っても、一日置くと多くの葉が散って飾れる状態ではありません。
また山に行き手折ってきた3回目、何とかようやくお客様のお皿に飾ることができました。
たかが飾るための枝
ひと枝に3日も費やしましたが、今はこの紅葉がなければ表せません。
さて、この紅葉を使った三番目にお出しした料理
恵那の情景
『月明かりに映える恵那の郷』
満月の月明かりの中、静かに眠る恵那の里山の情景。

この季節 梢にはまだ枯れる前のもみじ
その枝のそばには早咲きの山茶花が夜風になびいています。
その傍らには 山栗や椎の実、萱の実などさまざまな秋のみのりがころがり 恵那の野山のおだやかな情景を
古いナルミのボーンチャイナを満月に見立てて表してみました。 (人参以外は全て自然の山の幸)
◎モミジの人参仕立て
晩秋の紅の山々への誘い
無農薬有機栽培の人参を何も味付けせず、ただ50倍の水で1時間煮て養分全てを抜き出して冷まし、また5時間かけて湯がき、水を蒸発させ人参の養分をすべて元に戻しただけ、これだけでビックリする甘味と旨味がでてきます。 市販の慣行栽培の人参では出せない味です。
ここにも小宇宙 素晴らしき大地の味、人参の本当の美味しさをお楽しみ下さい。
「余分に手を加えないで食材の良さを引き出しただけで美味しくなる」 という私の料理の原点です。
◎走りの味 先紅の白い山茶花に苺ソース添え
木枯らし吹く頃に咲く山茶花が早くも咲いていました。 椿と違い山茶花は花びら一枚づつ散りますが、その花びらを一枚づつ集めて冬の走りの初物といたしました。
自然に咲くその花は、一本ごとに味が異なりますが、この花は独特の渋味も少なく微かに甘味を含んでいました。これに、自家製無農薬路地栽培のいちごジャムに一滴醤油を混ぜたソースを付けました。隠し味に醤油を使う事で、甘味は締まり、旨みが少し上がります。
◎ 恵那の山栗
たれひとり
採る人もなき
山栗は
いにしえ人の
いのちのささえ
縄文時代からの秋の重要食物
恵那は山国 山の至る所に自然に山栗が生っています。山栗は12000年も続いた縄文時代から日本人が食べ続けた重要作物。とても美味しいのですが、小さいので今は誰も拾いません。忘れられたふるさとの味。 籠を持ち山に入り 栗のイガに刺されながら小さな幸を一つずつ拾い集めてきてすぐに冷蔵庫へ。 数日間氷温貯蔵して冬を経験させ、春の芽吹きの為の甘味をたっぷりと作らせます。それを蒸気が触れないように蒸し上げました。
◎椎(しい)の実
この地方では珍しい縄文時代からの秋の重要食物 縄文時代は栗に次いで重要な主食の一つでした。 真っ白い実で、渋い皮もなく生食が出来る貴重な山の幸。50年ほど前までは子供はおやつ用に山に採りに行っていました。東濃地方は寒冷で少ないです。
◎萱(かや)の実
恵那の南にそびえる笠置山の麓で見つけた木の実 皮を剥いて炒り上げた、ほろ苦く香ばしい山家の味をお楽しみください。この苦さは生薬でも使われ、消化吸収を増進するといわれています。
◎棗(なつめ)の実
奈良時代以前に薬として中国から日本各地に広まり今は野山にも生えています。夏に芽を出すことから万葉人は夏目と
名付けました。秋にたわわに実った一粒一粒をもいできた秋の幸。初冬の喉を守り弱っている胃腸を守ってくれる生薬です。強壮・鎮静作用
◎ナツハゼの実
ハゼの仲間ではないのですが、夏にハゼノキのような紅葉が見られることから名づけられました。野性味があって
甘酸っぱい実は和製ブルーベリーとも呼ばれます。
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私の料理は、いわゆる高級素材をふんだんに用いた華やかな料理とは一線も二線も画した素朴すぎる料理
全て恵那の大地の恵みです。
農薬や化学肥料などで甘やかされて育った物とは違い、厳しい自然の中で病害虫にも負けずに懸命に育った濃い味の食材達は、甘味、酸味、渋味、旨み、それぞれ特別な個性を持っています。
そういう魅力たっぷりの食材は、その持てる旨味をただ最大に引き出して上げるだけ。それだけが良いのです。
どんな食材にも生まれてから今までの歴史があり物語があります。 どんな食材にも心があり生きています。
料理にも
器にも
食空間にも
すべて心があり生きています。
彼らを人のように思い、人と同じように遇してその心を引き出して上げると皆が自分の魅力を最大に出して食の場が完成し美味しくなります。
日本の季節は四季七十二節
皆様が来られる頃 恵那の野山はその折々の幸をくださいます。 また新しい物語のある料理をお楽しみください。