2022年11月27日の風景 | てっちゃんのまったり通信

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「キハ28定期運行終了の・・・ご乗車頂きまして・・ありがとうございました。

 終点大多喜に・・・到着です」

列車の中に長い間親しまれた音色の古いオルゴールが響く。

皆、次に聞こえてくるだろう言葉を待った。

しかし、耳にしたのは、言葉ではなく何かをこらえるような息づかい。

それまで思い思いにざわついていた車内が静まり

その場にいた誰もが耳を傾ける。

先ほどのキハ28への惜別の挨拶の頃から

言葉の端々に湿っぽい感情が混じっていたのは誰もが感じていた。

「がんばれ、やり遂げるんだ」

何が起こっているか十分わかった上で思う。その思いは皆同じだ。

やがて、意を決したかのように始まる終着駅到着のアナウンス。

何とかしようとすればするほど苦しそうになる彼女の声は

とぎれとぎれとはなったが、私の帽子のひさしを深く下げさせるのに

十分な力があった。

アナウンスのあと、残った力を絞り出すようにオルゴールが鳴り、

そして、その最後の一音が鳴り終わった瞬間に列車は大多喜の駅のホームに停止した。

車内を包む拍手。

ラストランならではの幕切れに私はしばらく席を立つことが出来なかった。

彼女の一言、一言の間(あいだ)におかれた長い間(ま)は

この列車の歴史そのものであったような気がする。

言葉を飾った惜別の弁ももちろん素晴らしかった。

しかし、私は最後の

「終点大多喜に・・・到着です。」

という一言に激しく心を揺さぶられた。

ついにキハ28が、58年間の長い旅路を終え、その終着駅にたどり着いた瞬間だった。



最終日に現地に駆け付けるなどもってのほか。

そう揶揄する声も多く聞こえる。

前もって撮影しておかないからこんなに混乱するんだ。と。

しかし、それはそれ。

2022年11月27日に指定された最終日、

その日でしか味わえないモノもある。

最終日は28に乗って別れを告げようと早くから決めていた。

混雑するのは覚悟の上。

いつもは目の前をつれなく通り過ぎてしまう彼をつかまえ

最後の時をむかえるまでの時間を、その懐でたわむれていたい。

そう思った。

この日は天気予報の段階から「晴」一色。

キハ28の最後の姿を撮影するにふさわしい好天。

普段は撮影できないことを惜しむのだろうが、

不思議に車内にいる自分に違和感を感じなかった。

前の日は雷鳴まで響く土砂降りの雨、その前の祝日23日も土砂降り。

つまりキハ28の走る最終週の天気は荒れた。

荒天の中でもびしょぬれになりながらキハ28にカメラを向け続けた。

全てではないが、撮りたいと思っていた風景は何とか手にすることが出来た気がする。

膝を怪我をしたりして体調が良くなかった中でも、心折れることなく

続けた撮影。

そして最終日は抜けるような青空。

「最終日、まずは、晴れて良かった」

心からそう思う。

沿線では多くの人々が今や遅しと彼の来るのを待っているだろう。

「さあ、行こう28。」



夜中に車を走らせ、乗車待期列に加わる。

幸いなことに順番は先頭から一けた台だった。

長い長いと思った待ち時間も

途中から乗務整理に現れたいすみ鉄道の社員氏とキハ28の話を聞いているうちに

あっという間に過ぎていった。

この日の行程は、まずは、いすみ鉄道の中間地点である大多喜から上総中野に向かい

上総中野で乗客の入れ替え。

そして、上総中野から折り返し大多喜を経て大原まで。

大原で再び乗車客を入れ替えた後、車庫のある大多喜まで折り返すというコースだ。

つまり、上総中野で待っていた方がより長く乗車することが出来る。

やがて、大多喜からの満員の乗客を乗せたキハ28がキハ52に引かれて上総中野に入線。

ここから大原まではキハ28が先頭を切る。

キハ28のヘッドライトが輝く最後の旅路だ。

準備が整い、いすみ鉄道社員氏に促され乗車。進行右側のボックスシートに席を確保した。

定刻よりやや遅れ気味に、エンジン音も高らかにキハ28は動き出す。

車窓から見える沿線風景は、もう見飽きているはずなのに不思議に新鮮に映った。

キハ28を見送る人、人。

組体操のピラミッドのように折り重なったカメラの放列。

列車が過ぎると、それこそ組体操のようにつぶれていしまうのではないかと

心配になる。

沿線を埋めるのは趣味人だけではない。

子供も大人も、老人も、男性も女性も。

皆、通り過ぎていくこの列車を眺め、携帯を構え、手を振り

その別れを惜しんだ。

上総中野を出発したキハ28.52コンビは、中間地点の大多喜を越え、国吉に停車する。

折り返しの大原までは、あとわずかだ。

この時、ホームでは、地元の中学生か高校生の吹奏楽が蛍の光を奏で始めた。

愛嬌あると言って良い位の演奏だったが、それに応えるように

キハ28が長いタイフォンを鳴らす。

ここらあたりから私の涙腺もまずいことになり始めていた。



「ありがとう! おつかれさま」

この横断幕の周りには無数のかかしが。

そしてその真ん中で無心に手を振る幼い姉弟。

横断幕も、かかしも、この日に備えて何日もかけてこさえたものらしい。

手をふる姉弟は、生まれた時からこの風景を見て育ち、

キハ28・52が通るといつも喜んで手を振っていたという。

何故にかかし?

と最初は思った。

しかし、一体一体のかかしが着ている色とりどりのこども服を見て思った。

このかかしはキハ28・52に向かって手を振り続けたこの子たちの歴史なんだ。と。

小さいかかしから、少し大きめのかかしまで。

これまでの時代、時代の子供たちがかかしとなって蘇り

一緒に手を振って別れを惜しんでいる。

本当のところは作った本人にしか分からないが

私はこの光景を見てそう思った。

同時に何て素晴らしいことを思いつくのだろう。と感心した。

子どもが成長してきた来し方を思い起こしながら、かかしを作っていったのだろう。

この日が好天でよかった。

心からそう思った。



小さな手にギュッと握りしめた白いハンカチ。

列車を降りる時に、ふと見かけた女性乗務員。

ああ、あの放送のひとだ。

そう思った。

同時に以前キハ28がその日の運行を終えた後に丁寧に掃除をしていた

あの人だろうと思った。

通り過ぎる時に、何か声をかけようと思ったが、声を発すると

情けないことにこちらも涙声になってしまう。

会釈だけして彼女の前を通り過ぎた。

握りしめられたハンカチの白い色だけが妙に印象に残った。

ホームに降りると、多くの人々に囲まれて、最後まで走り抜けたことを

安堵しているようにも見えるキハ28の姿が見えた。

あの時に言えなかったことを今

キハ28と白いハンカチの彼女に伝えたい。

「長い間ありがとう。お疲れさまでした。」



一緒に見た景色は絶対忘れない。

撮影日:2022年11月27日
撮影場所:いすみ鉄道 キハ28車内 大多喜駅 大原駅 上総東⇔国吉