映画『息子のままで、女子になる』You decide

2021年/日本/105分/監督・撮影・編集:杉岡太樹

Netflix

 

久しぶりにドキュメンタリー映画を観ました。

この映画は去年、渋谷のユーロスペースに『のさりの島』を観に行ったときに予告編を見て興味がありました。

 

 

NHKドラマで『女子的生活』(主演:志尊淳)を観てから、坂木司の原作を読んで大変感銘を受けました。

トランスジェンダーを扱ったものはたくさんある中で、「女子を楽しもう」という気持を強く持っている人が魅力的に描かれている作品は『女子的生活』を超えるものを知りません。

もちろん同性愛とも違うものだと思います。

 

このドキュメンタリーはサリー楓さんという一人のトランスジェンダーを追います。

慶應義塾大学大学院で建築を学び、就職が決まったとき、「ミス・インターナショナル・クイーン」というコンテストに出る決意をします。

かつてははるな愛さんなどが優勝しているこのコンテストはgirlでもなく、womanでもなく、princessでもない、QUEENを選ぶものだから、という理由からして楓さんがかなり理屈っぽいということが感じられました。

 

 

楓さんの子供の頃からの夢の第一番は建築家になること。

しかし、同時に自分の性にゆらぎを感じ、試行錯誤の結果、男子として大学に入って、女子として卒業するということを選びました。

確かにメイクしてきれいな服を着ている楓さんは、普通の女子より格段に美しい。

映画を観ているうちに気付いたのが、観ている自分がどこかに「男性的」を探している事でした。

 

『女子的生活』という小説では女子として生きることに強い意志を持った小川みきというトランスジェンダーが出てきますが、それでも思わぬところから偏見や悪意の目が向けられる。

サリー楓さんは、まだ「女子を楽しもう」という域までは行っていません。

とにかく「女性に見られなければ」と頑なな面がうかがえます。

 

 

はるな愛さんと対談したときに、はるな愛さんから「女性にならなければならない、という固さが見られる」と指摘されます。

確かに美人ではあるのですが、楓さんはまだ固いのです。それは私も思いました。

それを克服しようとしてかなり無理をして、自らつらい環境に自分を追い込んでいるようにも見えました。

 

それだけ、この問題は難しいことだ、というのがわかります。

両親に映画に出て欲しいと依頼するところから始まりますが、母は最期まで頑なに出演を拒否します。

男として教育をした、という父はあまり口数は多くはありませんが、内心ショックを受けているのだろうな、と思います。

ただ、大学院卒業まできちんとしてくれたのは両親であり、その点は理解があるのだと感じました。

 

女性になりたいのだったら大学は辞めろ、就職はできない、そんな話はたくさんあって楓さんは建築を学ぶということに関しては環境は恵まれていたのです。

しかし、戸籍から変えたいと望むようになると社会生活が難しくなります。

医学的にもホルモン注射をして、薬を飲んで「男性を捨てよう」とします。男性として子供を持つことはもうできません。

そして一番望んでいるのは両親、特に父から「女性として認められる」ということ。

 

 

英語のタイトルは「あなたが決めてください」ですが、女性に見えますか?男性に見えますか?それはあなたが決めてください、という事からです。性別というのは見た目なのだろうか。就職で性別を聞かれるけれど裸で仕事をするわけではない。監督が最後の方で「女性である証拠を見せてください」という質問をします。

 

身体的には手術をしていない楓さんは男ですが、この映画の時点では女性になる過渡期にある。だから「女性である証拠はない」のです。

そんな苦しみの鎧を脱ごうとする途中を記録した興味深いドキュメンタリー映画でした。

言葉に字幕をつけない方法はよかったと思います。文字で無意識に頭に情報が入る事は危険な事だと思うので、そこは楓さんに配慮した手法だと思います。