声が聞きたいなあ… -4ページ目

声が聞きたいなあ…

私がめちゃくちゃにした愛。たくさんの壁を乗り越えてようやくはじまった恋。信じて待つことが何よりもだいじだと「頭」では理解して、知っていた。けれど体が、心が、「頭」においつかず崩れはじめたとき、私はこの関係をみずから壊し始めた。…







声が聞きたいなあ…









なぜ、

最初に判らなかったのか?

パワーハラスメントの

兆候はなかったのか?
















私が入社したのは、

夏。

8月のことだった。




プライベートで

講師を務めていることもあり、

正社員では働けない。





自分がどういう仕事を得意としているかは判っている。

しかし

その分野での求人は通常、正社員のみ。








だから

東京の下町にある、その会社の募集広告を見つけたときは

「これだ!」



すぐに連絡を取り、翌日には面接に出向いた。



デザイン室の室長をつとめるタナカ氏は

一分の隙もないお洒落な出で立ちで小走りに現れ、

その控えめな態度と豊富な知識で、私を魅了した。




礼儀正しく、どちらかと言えば押しに弱い印象。

しかし私たちは旅やデザインの話で大いに盛り上がり、

面接は一時間を超過した。





タナカ氏は採用の是非に触れることもなく、

当然のように

「では、いつからの契約にいたしましょう」

と、

嬉しさでソワソワする素振りで、私に告げた。

「なるべく早くいらしていただければと思います」






ここまで興味や趣味の方向性が似ている人も珍しい。

また、

腰が低く

この上司の下ならアルバイトだからという理由で軽んじられはすまい、



私も、即決した。











「明後日に書類を作成して、印鑑と一緒にお持ちします」





















このときにはまだ、

何の兆候も

不安も

なかった。






















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実は、

パワハラ上司との遭遇は、

これが初めてではない。







17歳のときにアルバイトとして雇われた、本格コーヒー専門の喫茶店。

店主が

今思い出しても反吐が出るような

サディストだった。









いつでも猫背で、ビクビクしている素振りの、30過ぎのアルバイトの女性に

「死んじまえ、ブタ!」

「その顔を取り替えて来い。汚ねぇんだよ!」



客の有無に構わず、異様なテンションさで怒鳴り散らす。

それも

私が働き始めたその日の朝から。

新人に対する労わりや気遣いは皆無。





そして



その光景は、17歳の小娘にはとても耐えられるものではなかった。








「なぜ言わせておくの?あなたは人間でしょう?尊厳はないの?」

彼女に問い質した記憶がある。





やりきれなかった。一緒に辞めましょう、なぜ我慢する必要があるのかと、心を込めて説いた。


 


彼女は黙って、首を横に振った。

彼女はもう二年も、おなじ場所で罵倒され続けているという。

マゾヒストだったんだろう。

あるいは

「辞めます」と言ったら何が起こるのか、想像しただけで恐ろしさに身がすくんで、立ち尽くしていたのだろう。






私は3日で辞めてしまった。

長い、長い三日間だった。







「(彼女を別にすれば)今までで最高記録だ」

と常連さんから驚かれた。

「普通はね、3時間ぐらいだから。一日もたないよ」

「奥さんも逃げ出したんだから、あのマスターからは」。











今思えば、

あの客たちはいったい何だったんだろう?

言葉の暴力が日常的に飛び交っている店に通い

(確かにコーヒーは評判だったけど、でも断じてそういう問題じゃない)

安全な場所から暴力という見世物を眺めて、

彼女や私に「大変だね」と

物分りの良いことを言い、

その実、じぶん達は決して被害者になり得ないポジションを味わって、

胸を撫で下ろしていたかったわけだ。







心ない人達にとって、他人の不幸はあまいあまい蜜の味。





私だって周囲に不条理な事件が起こって、

じぶんが無関係なら

わが身の安全を実感して喜び、そのうえ、

いささかの同情を抱くこともある。

無責任な場所から、

まるで当事者であるかのような発言をしたことが、ある。



けれど

まともな神経の持ち主であればかならず

自己嫌悪に陥りながらでも

そういった己の行動を恥じて、

いつかは「じぶん」についての考察をはじめるだろう。





断じて

「神経の弛緩」を

じぶんに

許すべきじゃない。







私はこのとき、まだあまりにも子どもだったので

完全な意味では当事者足りえなかったし、

ましてや戦うことなど

考え付きもしなかった。









つまりは





高圧的で、

暴言を振るうこの店主から、





私は尻尾を巻いて逃げ出したのだった。









































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