声が聞きたいなあ… -3ページ目

声が聞きたいなあ…

私がめちゃくちゃにした愛。たくさんの壁を乗り越えてようやくはじまった恋。信じて待つことが何よりもだいじだと「頭」では理解して、知っていた。けれど体が、心が、「頭」においつかず崩れはじめたとき、私はこの関係をみずから壊し始めた。…







声が聞きたいなあ…








次にパワハラに出会ったのは


もう10年以上も前。








21歳。





紀尾井町の喫茶室。











このときの私は留学準備で、貯金のために昼夜なく仕事をしていた。







近くに政治家の事務所が数多くあり

コーヒーの出前は頻繁、

飲食店が少ないエリアにある喫茶室。

ランチタイムが修羅場だろうことも想像がつく。

けれど時給の高さに釣られて面接に赴いたとき、

店長と称する初老の男性に私は目を奪われた。






70代近いという彼の

すらりとした長身、柔らかな物腰。

表情はつややかに色っぽく、まるで女形のようで、

肌がすべすべしていた。



小さいテーブルと椅子から体をはみ出させて座り、

腕を鷹揚に広げ、

なめらかにジェスチャーを交えて私に仕事の説明をした。







面接の場での、採用だった。







別れぎわ、彼は



「あなたが勤務してくださる日から、老妻とヨーロッパ旅行に出るので10日ほど休暇をいただきます。

ここにはオオヤ君という男性がメインで入っているので、彼に色々教わってください」





にこやかに言った。





微笑みを絶やさない人だった。

雰囲気からスタイルまで、日本人離れしている



彼の孫娘にあたるくらいの年齢だった私は、

この初老の店長の華やかさに、ただ魅了された。







:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::








オオヤ君とは勤務初日に、はじめて顔を合わせた。

やせぎすな風貌は30才ちかいのに、

自意識過剰で内向的なそぶりはまるで浪人生のようだ。



話しかけても目を逸らして

趣旨のズレた、不明瞭な返答が返ってくる。




私に、警戒しているのかな?


とても指導してもらうような雰囲気ではないなー



と思った。





けれど仕事だ。

判らない事があれば訊くし

ミスをすればお互いのフォローに回る。




友人ではないのだから

細かい事は気にせず、

さくさく

ひとつずつ

「目の前の案件」を進めようとすればいい。








初日は、質問ばかりする私が

皮肉屋な彼に振り回される場面もあったけれど、

3日もすると

予想通りまるで戦場のようなランチタイムを

彼とたったふたり、

阿吽の呼吸で回せるまでになった。









思えばこれが






私が仕事を通して人と対等な信頼関係で結ばれた



初めての経験だったように思う。















私とオオヤ君は目と目で

すべてのテーブルについての情報を交わし、

皿をリレーし、

集中力を発揮して、

背中にもお互いを感じて、チームプレーを営んだ。






そういうとき、私たちはほとんど喋らなかった。

けれど

ランチタイムが終わっての充足感はすばらしく、

ティータイムに入ると、

手仕事をしながらぽつぽつと、

軽口も出るようになった。







心を硬く閉ざしていたかに見えた

オオヤ君との気安いおしゃべりは、嬉しかった。

達成感があったし、

信頼できる仲間にめぐり合うのは

仕事をするうえで、極上の喜びのひとつだ。








彼はコンプレックスの塊のような

まるで引きこもり青年のような雰囲気を

どんどん払拭させてゆき、

10日も経つと、そのイキイキした様子は

出会ったときの印象とまるで別人になった。












翌日は、



ヨーロッパ周遊から戻ってきた

店長が出勤する日だった。




































ペタしてね