声が聞きたいなあ… -2ページ目

声が聞きたいなあ…

私がめちゃくちゃにした愛。たくさんの壁を乗り越えてようやくはじまった恋。信じて待つことが何よりもだいじだと「頭」では理解して、知っていた。けれど体が、心が、「頭」においつかず崩れはじめたとき、私はこの関係をみずから壊し始めた。…







声が聞きたいなあ…






店長がヨーロッパから戻った日、

私はオオヤ君の異変にすぐ、気が付いた。





挙動不審。

あのイキイキした様子はどこへやら。

私と目を合わせない、

店長に話しかけられると視線を彷徨わせて、言い訳めいた口調で何か喋っている



小声で早口で聞き取れない





けれど

ランチタイムが始まって、すぐにその謎は解けた。












原因は、店長だった。










厨房から皿が出てくる一番邪魔な場所に立ち、

(と言ってデシャップを務めるわけでもなく)





「何やってんだ」

「これはアソコだろ?」

「水がないのが見えないか。どこのテーブルだ?判らないのか?目がおかしいのか?」




ひっきりなしに、私とオオヤ君の動きにダメを繰り出してくる。







そして

その決して狭くはない店内で、みずからは一歩も動こうとしない。





カウンターに肘をつき、

アイスコーヒーを舐めている。

カウンター越しに、厨房へ気安く声をかける。

ランチタイムにこれをされて喜ぶ調理人はいない。



この初老の男の病理に気付いているのか、

何気なく、うまくかわしている。








カウンターのこちら側では

昨日までの

流れるような、

雑音のない世界、

二人でつむぎあった呼吸は

瞬く間に失われた。






10日におよぶやり取りのうえ手に入れた(と感じていた)彼との連携を失ったこと、

昨日までのすばらしい仕事が、ふいに現れた雑音によってかき乱されること、

指導ではなく、思いつきとしか取れない悪口(あっこう)で注意を受けること、

何よりつらいのは、

内向的なオオヤ君への

一方的な

「罵り」



傍で、黙って聞いていなければならないことだった。





「この人はダメですよ。

一生、結婚なんかできるわけありません」






魅力的な声、

魅力的な笑顔で

心から嬉しそうに呟く、初老の男。




これがじぶんのことなら

黙って辞めるだけで済んだのかもしれない。




けれど

不思議なことに、

ひとは

他人のためだからこそ、力や、怒りが湧き上がることがある。







オオヤ君はもともと、こんな人じゃなかったのかもしれない、

この男から長きにわたって卑屈さを植えつけられたに違いない、

この

老い先長くないはずの、見かけとは裏腹に下品な精神構造をもった男に

若々しさや

瑞々しさ、

素直な伸びしろを、食い物にされているんだ。






さらに10日も経つと、その考えは確信に変化した。










この喫茶室は、通りに面した一階にあり

地下にはビル全体のテナントを総括する事務所があって

ビルのオーナーである「社長」が毎日、そこに詰めていた。






社長は背の低い、温厚な五十がらみのおじさんで、

「働き者」という印象だ。

時には喫茶室を覗いて、スタッフに声を掛けてくれることがあった。












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年齢を重ねるというのはおそろしいことだ。



今更成長するわけがない

目下の人間が言う話に耳を傾けるわけがない

そう思われてしまう。



「変化を恐れない年寄り」は、概してアクティブだ。

滅多にお目にかかれない。

それだけで尊敬の対象だ。







ましてや人から「任されている」場所を

じぶんの小さな城とし、君臨し

労を惜しみ

若者を虐めて

残る毎日を潰している老人に、

だれが正面から向き合ってくれるだろう?






この人には、意見してもダメだろう。

ヒステリーを起こすか

冷笑にふすか、それは分からない

が、



間違いなく、目の前の問題を摩り替えるか、排除しようとするだろう。







そうなると当然の成り行きとして、

私は

社長に談判するという考えに行き着いた。














































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