西新宿で高層ビル群のあいだを潜りぬけて歩く。
迷いながら
ビルの吹き抜けにあるパティオまで降りてゆき、
かれを知る人と、
かれの話をした。
近況を聞いている。
私はもう、
かれの近況を知る場所にはいない。
相手は
私が部外者で
かつ、話が通じる人材なので
さまざまな噂話を
当事者であることから解放されたいかのように
ためらいなく、よどみなく話す。
私も
相手の話にとりまぜて、
ちょっぴり
かれの
悪口など
を
聞いてもらう。
…そうしないと、バレてしまうと思ったから
(って小学生か。
私とかれとのかかわりを知っている人は、だれもいない。
はずだ。
だから、
うしろめたさはない。
かれの耳に入る心配もない。
というより
耳に入ってもいい。
むしろ
そこを想像すると
心がしーんとなる。
思考停止。
かれが
私に関することで
ほんのちょっぴりでも心が波打つ
なんてことがある
その可能性がある…
今や
想像がつかない。
何かが遠すぎる。
ものすごく遠い場所に来ている。
そんな気がする私は、
だから
つまりはかれの名前を呼びたいだけなのかもしれない。
口の端にのぼるひとつの音のかたまり、
なつかしい響き、
すぐに転がって消えてゆく話題を引き戻してまで
もういちど呼ぶ、彼の名前。
あ。
あのへんの柱の影から、かれが
「よんだ?」
って
走って駆けてくればいいのにね。
そしたら
私は
「うん、そう、いまホンヤマさんの悪口いってたの」
って、
にがい顔?
いや
イタズラっぽい目をして
それから、
大げさに笑ってあげる。
つづいて
かれの
やぶれるような笑顔が
目の端にちらつく。
すごくリアルに。
なんて、かわいい顔なんだ。
なんて、かわいい男だろう。
それでも。
私、やるだけのことはやった。
やれるだけのことは
思いつくかぎりの不器用なことは
ぜんぶ、
ぜんぶ、
ありったけぶつけた。
だから
停滞してても、
どんだけ勝手な想像しても
だれかにわるくちのひとつやふたつサービスしたって
いい。
ゆるされる。
私が私を許す。
ホンヤマさん、私は負けないぜ。
ビル風になんか負けないぜ。

