大阪の夏といえば天神祭。

私はこの中継番組のプロデューサーを4回ほど担当した。

 

実はこの『天神祭中継』を巡って、忘れがたい“お金のバトル”があった。

私は編成部時代からこの中継に関わっており、祭りの規模に対して

あまりに貧弱な制作予算で、どれだけ現場が苦労しているかを知っていた。

 

そんなある年、番組プロデューサー2年目の私は、

新聞社から出向してきた藤木編成局長(仮名)に呼び出される。

藤木局長は、新聞とテレビの文化の違いを理解しないまま

「すべての番組は自分が統括する」と信じて疑わないタイプ。
日常的に「俺は聞いてない」「なぜ俺に報告がない」「俺がトップだぞ」と、

何かにつけて“俺様発言”を繰り返す人物だった。

 

その彼が突然、

「例年2,500万円で作っていたこの中継、

今年は2,000万円でやってくれ」

と言い出したのだ。しかも続けて、

「内容のグレードは落とさず、だ。

プロなんだから、それぐらいできるだろ?」

いやいや、こちらとしてはむしろ「予算を増やしてもらえないか」と

編成に相談しようとしていた矢先である。

通常、予算の調整は編成部の特番担当とプロデューサーが行い、

場合によっては編成部長や制作部長も交えて話し合うもの。
それをいきなり局長が口を挟んできて、

しかもあり得ない内容を一方的に通そうとしている
──これは前代未聞だった。

 

番組の予算とは、詳細な項目に単価と数量を入れ、

積算して構成される。
そのまま計算すれば、当然予算をオーバーする。
だからこそ、どこを削るか、どう工夫するか、

例えば技術会社にお願いして減額してもらった分を別番組で

少しずつ返すこともある。
──そんな地道な努力の積み重ねで成立している。

 

その年は、取材船に乗せるタレントを削り、

アナウンサーだけで中継を構成することも検討していた。
そんな努力の最中に、まったく予算の実態も知らず、

「グレードは落とさず2000万円で作れ」という無茶を言われた。

さすがに私もキレた。

「その予算では絶対に作れません。どうしても作れと言うなら、

プロデューサーを変えてください」

と啖呵を切り、

「そんなに簡単に言うなら、藤木局長が作ってみたらどうですか?」

と吐き捨てた。

 

すると彼は、

「君は番組制作のプロ中のプロなんじゃないのか?

 できないことを可能にする方法を考えられるのがプロだろ」
「プロの仕事というのを見せてくれよ」
とうすら笑いで言う。

 

──詭弁とは、まさにこのことだ。

この理屈が通るなら、定食屋でも、化粧品でも、国家予算でも、
「プロが作ってるんだから安くできるだろ」で済んでしまう。

そもそも、番組制作の”モノの値段”もわかっていない人間が、

なぜ一方的に減額を指示できるのか。

──いずれにしても、新聞社もとんでもない人材を出向させてくれたものである。

「プロならもっと安く作れるだろ」──あの時の言葉を思い出すと、

笑いと怒りが同時にこみ上げてくる。

 

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