次の日、事情を知っているスタッフに連絡し仕事を休んだ。休むと言うより行けなかったと言った方があっているかもしれない。

目は泣いて腫れていたし、人と話が出来るほど元気でもなかった。
スタッフからは、大丈夫任せてくださいとのメール。
気遣いが嬉しかった。開局してからゆっくり休んだ事がなかったけど、予期せぬ休み。たまには休みなさいということなんでしょう。
部屋かたずけないと・・・でも身体が動かなかった。
ボーっと昨日の事を思い出す。すべてがまだ夢の中の出来事のようだった。
あまり思い出したくなかった。

警察から何度か連絡が入る。
盗まれたものの確定をしてほしいとの事と犯人が自供した物品の内容を伝えたいとのことだった。
犯人はかなり細かく盗んだ状況を覚えていた。
そのことがまたショックだった。

スタッフからメールが入る。そこには、本日夜、佐合井マリ子さんのクリスマスライブがあります。気分転換に行きませんか?というものだった・・・

たまにはこんな時間もいいだろう。その日の夜、歌姫の歌声は優しかった。

少し心が楽になる気がした。

結局、次の日も仕事を休んだ。
とはいえ、この日は日曜日。
親友が私を誘ってくれた。高島までドライブ。
気分は少しづつ晴れていった。




続く
一人になった私はボンヤリしていた。

何度も何度も同じシーンが繰り返し現れる。一瞬だったが犯人とすれ違ったあのシーン。
これをフラッシュバックと呼ぶのだろう。
周りが暗かったせいもあるが顔はよく覚えていなかった。
暗闇に浮かぶシルエット・・・恐怖感だけが残った。

私にはどうしても気になる物があった。盗まれた物の中でどうしても取り返したい物。
それは、通帳でもなくキャッシュカードでも現金でも洋服でもなかった。

取り返したいもの・・・
それは、スキューバダイビングの資格カードだった。

15枚ほどあったカードすべてがバインダーから取り外され消えていた。
すべて私の写真が入っている。写真を見られていることが嫌だった。しかも、わざわざカードだけ外して持っていくなんて・・・

顔を覚えられている?
そう思うだけで嫌悪感と恐怖が私を襲った。
震えはまだ止まらなかった。

こんな時に駆け付けてくれる彼がいる訳でもないし、友人を呼び出すのも時間が遅いので気がひける。

普段泣くことなんて滅多にないのに涙があとからあとから止まらなかった。10代や20代じゃないんだから、しっかりしなきゃと思う。
犯人が捕まって安心した涙なのか、それとも怖かったからなのか、今でもわからない、とにかく涙は止まらなかった。


続く
刑事告訴・・・
TVドラマやニュースでは聞いたことがある。

しかし、今ここで私が聞くとは思っていなかった。

刑事告訴って・・・
刑事が続ける。
犯人は、間違いなく貴方の家に忍び込み、現金やカード下着類を盗んだ事に違いありませんね。
これは、あなたのものですよね。犯人は、性的犯罪の常習者で以前に逮捕歴もあります。
自宅にいらっしゃらない時でよかった。もしバッタリ出会っていたら危なかったかもしれません。
ところで、下着の盗難届け出されていませんよね。
なぜですか?

・・・確かに下着の盗難届けは出していなかった。
何となく気恥ずかしいし、いちいち説明するのも抵抗を感じる。男性にはわからないかもしれない。

返事に困っている私に刑事が続ける。

お気持ちはわかります。
下着に関しては出される方があまりいないのが現状です。
しかし、これだけの証拠があるし、この辺りで下着を盗まれたという事が起こっています。
もしかすると同じ犯人かもしれない。
通報はあるのですが、告訴まではされない。今後、犯罪被害者を出さないためにも犯人にしっかり罪を償ってもらうためにも、告訴をして頂きたいのです。

犯罪被害者という言葉が妙に引っ掛かる。
そうか、私は犯罪被害者なんだ。

刑事は熱心だった。

「わかりました。」私は心を決めた。
私もマスコミの一員。被害に遭った方達のお役に立つのであれば、告訴をしようと決めた。

先程、犯人を緊急逮捕しました。確証を得るために犯人の誘導で自宅まで伺いました。今日はもう遅いし、また改めてお伺いします。盗まれたものを確定しておいてください。

何かあれば、いつでもこちらに連絡ください。
刑事から手渡されたのは名刺だった。
(ふ~ん、名刺があるんだ)
左手の薬指には指輪が光っていた。
その薬指を見詰めながら、ふと思う。

まだ、何も聞けていない!!そう、私は何も知らなかった・・・

あの~、犯人のこと教えてください。

刑事は私の質問に言葉を選びながら丁寧に答えてくれた。

草津市に住んでいること。名前、逮捕時の様子etc

詳しく話を聞きたかったがこれから大阪の警察署に戻って犯人の事情聴取を行うという。

私は車を降りた。そして3人の刑事が乗った車が見えなくなるまで見送った。


一人になるのが怖かった。



続く