友を選ばば その3 親子の欠片 | FlyingVのブログ 『 so far so good 』

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男女、家族、そして友人達との様々な人間模様を書き記した記事が中心です。
みんカラから移転したものや創作したものを掲載しています。

すると、トイレから戻った友人は、やけにテンション高く、話を続けた。

「あいつよお、誕生日でさ、前の嫁さんのガラケー使ってたみたいだから、帰りにスマホを買ってやってよ。高校受験の合格前祝いだから、合格しなかったら返しに来いって伝えて、だはははは。スゲー喜んでたわ。」

さっきとは打って変わって大げさに話し始め、

「でさ、あいつ、なんて言ったと思う?」

「大事します、山内さん、ありがとうございますだってよ。」と声を張り上げる友人。

「ふ~ん、礼儀正しいな。」

「あと、俺が再婚して子供が居ることも伝えたら、弟ができてうれしいだって。」

と威勢よくまくしたてる友人の、普段と様子が違うことにようやく気がついた。


「お前、これアルコール入ってんじゃ、、、」

「おい、聞けよ。本当に、なんにも言わねえんだよ、あのボウズ。

前の嫁さんが苦労してたことや、俺が死んだことになっていたことも。そりゃそうだよな、もともと俺は死んだ人間なんだし。

でもよ、全部自分で背負っちゃいましたみたいな一人前の顔してて、、まだ15歳のガキのくせにさ、実の父親に気ぃ遣いやがってよ。よそよそしいのも大概にしろってんだ。」

ここまで一気にしゃべり終えると、友人は唇を噛んで、俯いてしまった。


「おい、どうした?」

「俺は、ダメな男だ、、、、、、」

と、絞り出すように言った後、声を震わせ、

「あいつ、俺のことずっと、、、、山内さんって、名字で呼ぶんだぜ。」

「・・・・・」

「一度だけ、おとうさん、、って言い掛けて、必死に飲み込んじまってやんの。てめえのオヤジなのに。」

「うん。。。」
「どうして、お前の親父なんだし、呼んでもいいんだって言ってやれなかったんだろ、、本当にダメな男だ、俺は、、、ワリィ、ちょっと泣くわ、、、、ふ、、ぐぅううう、、」

メガネの縁に溜まっていた滂沱の涙が、ほほを伝い、顎の先からテーブルに落ちて、ぐっと握った両拳の間に小さな水面を作っていた。

「なんだ、似たもの同士じゃないか。そんなん口に出さなくったって、親子だよ。」とおしぼりを差し出す私に、

「・・・・そう、そうなんだけど・・・」と言った切り、客でごった返す店内の喧騒だけが、私と友人の間に流れていた。


しばらくして落ち着いた友人は、顔を上げ、またいつもの調子に戻っていた。

「あの日の夜、前の嫁から電話が掛ってきて、ま、スマホのお礼というより、文句みたいなもんだったけど。」

「ははは。勝手なことするなって?」

「ご明察。でよ、その日の夜に、あいつのスマホ勝手に見たんだとさ。そしたら、電話帳に登録されているのまだ2件しかなくて、嫁の携帯と、俺の番号な。」

「いくら母親でも、そらマナー違反だ。」

「そうだ。けどよ、電話帳に、なんて書いてあったと思う?」

「うん?」

「あのよ、お母さんとお父さんだってよ。」

「そうか、、、良かったな、、」

「ワリィ、俺、もう一回泣くぞ。」

「許す。許すけど、今すぐ、さっきのおしぼり返せ!」

といい年こいた大の大人が二人、しばしの間、仲良く顔におしぼりを当てた後、真っ赤にした目で会計をすませていたという。


別れ際、ツレから頼まれたのは、「俺とあいつのランクルの画像データ、送ってくれ。」とのこと。

きっと、息子にメールを出す為の口実にする気だ。

今まで頼まれなかったのが不思議なぐらいだったので、喜んで添付してやった。


あの日以来、2歳から止まっていた13年分の時間は、桜の蕾が薄桃色に膨らむ頃、再び、15歳の少年が、この駅のロータリーに胸を張って降り立つ日へと続いていく。

誇らしげな表情は父親へとまっすぐに向けられ、スマホと合格通知をその手にしっかりと握りしめて。