はい。忘れてました。
いえ厳密に言うと忘れてたのではなく、覚えてたけど更新する気に慣れなかった。じゃなくて時間がなかった(笑)
ともあれ、前回は歴史の始まりの/2まで書きましたので、当然のようにその続きを。
これは作者の願望でもあるのですが、誰かコメント書いてください。
誰にも見られていないと気分が落ち気味です。
では、本編のほう。
/3
蹴飛ばされた僕は必死でこけるのをガマンして、中を見渡した。
僕は職員室という空間に、高校になって入ったことがなかった。一番新しい記憶でも、中学二年のとき。
部屋の構造なんて知らないし、どんな匂いがしたとかもろくに覚えていない。
ただイメージとして、机がたくさん並んでいて珈琲のにおいがする。そんな空間であったと思う。
少なからず、今の皐月高校職員室はそんな空間とはかけ離れていた。
部屋中に響く人気バラードソングと、ところどころで聞こえるラジオの音。上品な香水の匂い。クラリとこないのは中にいる人物が全員同じ香水を使っているからであろう。
「早く行きなさい。入り口で止まられたら邪魔よ。まったく、今まで何を教わってきたのだか…」
金髪の少女は相変わらず無茶なことを言う。行き先も知らない僕に”早く行け”というのだから。
ドンと背中を押された。振り向くと不快そうな顔をした、彼女がいた。
「行き先を言うのを忘れたわ。別に…ただうっかりしただけよ」
何かが聞こえたが無視した。
そのままぐいぐいと押して一番奥の席に、乱暴ではあるが案内した。
一番奥の席。それは一番電話がかかってくることが多い、教頭の席だった。
識別した理由は、ネームプレートだった。しかしそこにいたのは、うっすら禿げた教頭ではなかった。
緑色の作業用ジャージをきた、これまた美人な女性だった。
髪の色も瞳の色もまた緑だった。服の色の溶け込まないのその長い髪は、後ろで乱雑に縛られていた。
「はじめまして、華条アキラ君。私はアリスミール=クゥ=マイアリア。長いからアリスでいいわ」
会ってもいない僕の名前を言って、緑髪の女性はアリスと名乗った。
何故ここに僕をつれきたのかと聞こうとしたら、金髪の少女に阻まれた。
「アリス。このクズにあったのは今がはじめてよね。話を通していたって言うのは嘘ね?さっき自殺しようとしていたわよ。このクズ」
誰か弁護士を呼んでくれ。誰か僕の味方をしてくれる人物はいないのだろうか。
なんだか僕の呼び方があの少女に限って、クズとなっているような気がする。
「蓮火。せっかく来てくださった人に対してそれは失礼でしょ。人には名前があるのだから、それで読んであげないと。ね、華条君?」
僕に話を振るな。無茶振りもいいトコだ。それと来たのではなく強制連行ですよ、アリスさん。
などと思いながら、机の上を見た。女性としては珍しくあまり整理整頓されていない。苦手なのだろうか。
”ヨーロッパ消滅”、”消えた北海道”、”テロ組織いまだ発見されず”などの最近の新聞が広がっている。
世間では北海道を消したのも、ヨーロッパを海の底に沈めたのもテロ組織が行ったものとされているが、果たして事実なのだろうか。
「うん。君は勘がいいね。正解。今回の事件の黒幕は、テロ組織なんてものじゃない。何か別の組織よ」
アリスさんが何を根拠にそんなことを言うのかはわからないが、その口調ははっきりしていて、確信しているようだった。
にしても、そんな簡単に国を沈めるようなことができるのだろうか。
「そうね。確かに現実味を帯びた話ではないわね。国を沈める。その行為は莫大な費用と、膨大な装置、果ては無尽蔵のエネルギーが必要でしょうね。私たちでたとえるのなら、魔術使いではなく、魔法使いでしょうね。でも今回は違う。魔法じゃなくて化学、いや、科学か。人工的に地震を発生させて、大陸さえも無に返す兵器。それがこの話で黒幕が使っているものよ」
はて、さっきから僕は無言で、一言も言葉を口にしていない。なのに、会話が成立しているような気がするぞ。
ん?いつの間にやら部屋中に響いていたバラードが停止している。誰かが止めたのだろう。
いいところだったのに、という私情はさておき職員室中の物音が消えてシンと静まり返っていた。
まさかとは思うが、アリスさんがこの話をするのは初めてなのだろうか。
「あれ?私この話したことなかったっけ?」
天然だこの人。自分で行ったことを忘れるなんて。
「失礼よ、華条君。ま、いいわ。じゃあついでに言っておくわ。私たちがあなたを必要としている理由を教えましょう。あなたの力がほしい。いえ、正確にはあなたが使える契約魔術。それによって召喚される魔獣。その中でも最強と謳われる、炎帝の力がね」
カタカタとキーボードを打つ音もなくなってしまった。誰もがアリスさんの話を聞いているという中で、僕はこの緑髪の女性を敵として認識し始めていた。
確かに、華条家の魔術は召喚魔術に長け、魔界や天界からなにかを召喚し我が力とする一族であるのは間違っていない。
ただ、一族の中でしかそれは語られていない。ましてやあの”炎帝”の話など、父さんとの間でもあまり話したことがないのだ。
それを彼女は、アリスさんはさも当然のように言い放ったのだ。
「え、炎帝って。まさか……」
金髪の少女が動揺している。フム、彼女の母は二十年前にこの皐月町にいたようだね。出なければ炎帝の名すら知らないだろう。
「アリスさん、どこでそれを聞いたのかは知りませんけど炎帝は二十年前に僕の父、華条暁斗が契約した魔獣だ。確かに僕は華条の人間だ。でも召喚をする媒体がない。それに…」
「生きているのかもわからない生物を召喚するのは危険だ、と?」
「なっ!?」
確かに、炎帝は、二十年前に消滅したという話を父さんから聞いた。だから、私は身に着けていないとまで言ったいたのだから本当だろう。
「知るはずもない、ですか?それにしても君は勘がいいなぁ。私が普通の人間ではないと疑い始めているね。うん。間違ってないよ。君の考えていることは」
普通の人間ではないと、彼女はサラリと言う。本人が言うのだから本当なのだろう。
僕からしてみれば普通も何も、自分が普通ではないのだが。
魔術使い。僕のような人の間ではそう呼ばれる。その名のとおり魔術を使うものたちのことだ。
「へぇ。ま、延ばしても埒があかないし。私はご想像のとおり、魔術使いですよ。マイアリア家頭首。介入魔術に自信があるのよ。こと、読心魔術に関しては」
介入魔術。その言葉を聞いて父との魔術鍛錬の話を思い出した。
『いいかいアキラ。この世の人間には二種類ある。魔術を知るものと知らないもの。いくら強大な魔力を持っていたとしても、魔術を知らなければ宝の持ち腐れというものだ。その点から言うと攻撃魔術、いわゆる前線に立って戦う魔術師。通称ブローミルと呼ばれるものはさほど脅威ではない。戦術は戦略にはかなわないからね。でも裏に控える魔術師。自らは手を下さずありとあらゆる手段を使い、ブローミルを援護する魔術師には気をつけろ。中でも有名なのは介入魔術。介入魔術とは精神破壊魔術とも呼ばれ、他人の精神に進入する危険な魔術だ。入られた魔術使いは過去を見られ、行動を読まれ、果ては内側から精神を破壊される。簡単に言えば、廃人にしてしまうんだ。他にも読心魔術や、過去視などがあるが、やはり一番気をつけなければいけないのは精神破壊魔術だろうな』
まずいな、この距離ましてや彼女の術の標的は僕だ。いつ再起不能にされるかわかったものじゃない。
僕は一歩後ろに下がった。
「安心してアキラ君。別に君を捕って食おうというわけじゃないし、さっきも言ったでしょ。君の力を借りたいと。ま、手を貸すかどうかは君次第だし、強制もしない。でもこれだけは覚えておいて。この地球にいる限り、安全な場所なんてないの」
くそ、こんなの選択肢なんてはじめからないじゃないか。
協力しなければいつか起こる天変地異による死。
協力すればこの状況を打開できるかもしれない。
二つに一つ。僕は…。
「協力しよう。可能性が少しでもあるほうを選ぶ。それで世界が変わるのなら」
アリスさんは椅子から立ち上がって僕の手を両手で包み込んだ。
「ありがとう。私たちは華条アキラを全力で歓迎するわ。それじゃみんな自己紹介をよろしく」
といってまた椅子に座ってしまった。
「私は葉月蓮火。魔術使い。それだけよ、あんたみたいなクズとこれ以上話すことなんてないわ」
金髪の少女、葉月さんはそっぽを向いた。握手も無視だ。
アリスさんに聞くと本人他人に触られるのが嫌いならしい。
とっとっととリズミカルな音を立ててこちらにかけてきた少女。
葉月さんや僕と同じく、皐月高校の制服を着ている黒のツインテールの女性は僕の目の前で止まって。
「私は鈴音鶴来。よろしくね、華条君。あ、得意なのは料理と波動魔術よ」
まったく、料理と魔術を同じもののように言うな。何気に怖い。まさか、魔術で料理をっ!?
「ボクは朝比奈遥子。よろしくね。ボクはみんなと違って魔術使いじゃないけど、機械には強いの。みんな機械だけは弱くって、パソコンすら触れないのよ。雪未さんなんて、マウスを動かすのに体も動くんだもの」
女性にしては珍しいボクという一人称を使っている赤のショートカットの少女。服装は私服なので、中学生といったところだろうか。ちなみに、判断基準は胸。
そういえば話にあった雪未さんとは僕の横でお茶をすすっている、着物姿の女性のことだろうか。
「おっと、拙者の番かな。白乃雪未だ。そなたの父上とは少し顔見知りでな。なるほど、暁斗が言っていた息子がお主か。うむ、よろしく頼む」
なんというか、古風な話し方だな。返事がしづらい。
「あ、そうだ。言い忘れたことがあったわ。私耳が聞こえないから、後ろから声をかけるときは肩をたたいてからお願いね。じゃないと気づかないから」
なるほど、だから読心魔術を常時使っているのか。それは辛いだろう。
ちょうど話が終わったところで、再び職員室のドアが開かれた……。
カツンと綺麗な音を立てて入ってきた女性。葉月さんはもちろん、白乃さんよりも年上。
まるっきり大人の雰囲気だ。
「あら、もういらっしゃってるの?アリス。これ、頼まれたものよ。それとも本人に渡したほうが早いかしら?」
長く腰まである赤い髪。何故だろうか、どこかであったような気がする。
僕はその女性の前に立って。
「華条アキラです。よろしくお願いします」
「知ってるわよそんなこと。それより久しぶりね、アキラ君?五年ぶりだったかしら?」
はて、確かに見覚えはある。彼女も僕のことを知っているらしい。
一言で言おう。
誰だ?
「申し訳ないですが、僕は貴女とどこかでお会いしましたでしょうか?」
「何惚けたこと言ってるのかしら。それとも何、私の顔を忘れてるのかしら?この風月藍梨の顔を」
風月…藍梨…?どこかで……!!!
「あ―――――。藍梨さん!お久しぶりです。以前は五年前の正月でしたっけ。いやぁまだ皐月町に入るとは思いませんでしたよ。すいませんね。父は実家に戻ってまして。で、本日はどのような話を?」
風月藍梨。十年前悪魔の産物で僕の父、華条暁斗とともに戦った女性。風月茜の妹さん。
いやぁ懐かしい。髪伸ばしたのか。前は肩にかかる位だったのに。
「私はここの保護者みたいなことをしてるわ。それと、これを貴女に渡しにね。ハイこれ。茜の遺品から持ってきたわ。これからの貴女には必要なものでしょ」
白く細い指が持っているのは一冊の本。もともとは白い本だったのだろうが、今ではすっかり色が落ちて茶色くなっている。
十年前。華条暁斗が使用した魔術書。それが彼女の手にある。
華条アキラは最愛の人であった風月茜を死なせてしまった。己の無能ゆえに。
だから彼は魔術を捨てた。二度と悲しむ人がいないようにと。
そのとき、華条暁斗は自分の魔術書を死んだ茜さんに渡した。
それを藍梨さんは受け取って、茜さんの遺品にしたと聞く。
わざわざそれを持ち出したということは……。
「何かが動いてるんですね。藍梨さん。アリスさん、僕は何をしたらいいんですか?教えてください。僕は十年前のように誰かが泣くようなことにはしたくないんです!」
どんっと僕はアリさんの机をたたいた。
もう嫌なんだ。もう…、二度と……。
なぜ、今頃になってこんなことを。
「誰かが泣くようなことか。口を挟むのは好きではないのだが、すでに幾万という人が死んでいるようなのだがな」
後ろの白乃さんが口を開いた。
「確かに…。でもこれ以上被害を出さないように僕は…」
「とりあえずその中身確認してもらえるかしら?一応藍梨が確認してるけど」
僕は魔術書を開き、一番初めの行を読んだ。
Arius
「初級魔術:アリウス」
英語で呪文を詠唱する。言っておくが本にカタカナで呪文が書いているわけではないので、必然的に英語そのものを読む羽目になったのだ。
ちなみに英語の成績はいい。
ボンと足元で音が鳴って黒い煙が立ち上る。
見れば小さなクレーターが足元にできている。
なるほど射出型の魔術か、それに周りか少し焦げているのを見ると熱関係か。
「本物のようね。じゃソレ貸してくれる?」
アリスさんが何かを納得したような様子で僕に手を伸ばす。
僕は渡すのを躊躇ったが結局葉月さんに取り上げられて、アリスさんの手に渡ってしまった。
葉月さん特有の目で威圧をされる。
無駄な抵抗は二度としないようにしよう。
パラパラとページをめくるアリスさんを尻目に僕は窓にもたれかかった。
外は静かだ。誰もいないのだから当然なのだが、なんだかまるで他人事のように考えてしまう。
「あったわ。それじゃあ……」
めぼしいものでも見つけたのか、アリスさんは立ち上がって魔術書を葉月さんに手渡した。
葉月さんはそれだけで納得したのか、アリスさんが見ていたページを開いたまま職員室を出て行ってしまった。
「それじゃみんな、グランドに行くわよ」
何ともやる気を出させない、掛け声だったがここでじっとしているわけにもいかないので、僕は窓から離れあのせまっちぃグランドに行こうか。
ぐへ、疲れたぜこんちきしょう。
三日かかっての作業でした。とりあえず歴史の始まり/3が終わりました。つーか、なげぇ。