翌日の朝になって
朝の挨拶をした

よそよそしくされても慣れている
もう私は言い合いになるような言葉も出ない

必要以上の言葉も言わない



主人は昨日物を投げつけて

2階に上がってしまった

私は追いかけたりもせず
言い返すような真似も途中でやめてしまって
側に行くこともやめた

拠り所が欲しいからとまた誰かを探し始めるのかな

それとも

自分はずっと蔑ろにされて来ているんだと

また宝箱さんに連絡して

彼女が靡いてくれるか様子を見て待つとかかな

最低だな

でも不倫発覚から

何度も騙されて来ている私がいる


どうでもいいや

そういう事が主人のしたいことなら

仕方がないと思う


『あなたとは価値観が違うから!』

私にそう言っていた主人は正しいし

かまわない

私は主人の性癖を一生理解出来ない



朝になって台所に行くと
夜中に主人が1人でお刺身とご飯を食べていたことに気がついた

夜のうちに何度か台所に出入していたのは

私の様子を見に来ていたわけではない

これだったんだ

自分の食欲を満たしていたんだ

欲求にはとことん遠慮がない 

肉欲も同じ


私は黙ってシンクに置いてあった皿を洗って片付けた


そういえ私は食欲もなく

昨日の帰宅から何も口に入らない


また食べられなくなるのかな

食事もできなくなるだろうか


昨日買ったイチゴ 

きっと主人は食べなくて

冷蔵庫の中で腐っていくんだろうな



私は今日娘のところに向かう
心療内科でカウンセリングを受けて

薬を貰ってから電車に乗って


自宅を離れるから
主人のためにチリビーンズを作った

午前の時間に

主人が私のために頼んでくれていた
アーティストのDVDが届いた 

それとは知らず、届いたダンボール箱を

2階の和室にいる主人の隣の机に

置いて来た

リモート会議中だったから、そっと置いて来た

主人は後から降りて来て
『せっかくあなたのために買ったんだから
DVDを見て?』

そう言って居間に持って来てくれた


DVDを購入してまた私にお金がかかった

次はCDを購入してお金がかかった



離婚してと言われて
家を出ていけばいいと言われた翌朝に

私はまた主人にお金を使わせてさまった
無駄なお金を
返品したなら私にかけたお金が戻る
私は無罪になる

責められない


してやったとか好きなようにして来たと言われる根源になるものは
私にはずっと重いままだし

返したなら私はそう言われないで済む
一つでもそう言われる根源を減らしたい

「とても感謝しています
欲しいなと思った物だしとても嬉しいです
ありがとうございます
でも返した方がいいと思います」

涙が出てきた
自分が情けない、悲しい涙が止まらない
全部合わせて

私の2日分のパート代に少しだけお釣りがくる

価格のDVDセットだ
私が自分で稼ぐお金は微々たる物なのだ

私の稼ぐお金は

息子の大学の寮費くらいで簡単に消える

私は稼いでなくて

主人が稼いだお金を

こんなDVDに使わせてしまっている

この家を出て行くなら
暮らしていけない

そんな私が買えるものではない



涙が止まらない
止まらない

主人は私を抱きしめた
DVDを開けてセットして
『あなたのために買ったんだし、楽しんで欲しいから見て?』
そう言ってスタートボタンを押した

今の私が
楽しんで見れるかと言えば

素直にNOだ

私という人間が見る権利がないとさえ 

思う

涙が止まらず

悲しい無様な小さな自分しかいない
「開けてしまうと返品出来なくなるから」
そう言うのがやっとだった

主人は私をまた抱きしめた
病院に行く時間を私に尋ね
送っていくからとも言った

私は何の価値もない
居場所もない

涙しか流れない

私は何をしたいんだろう