邦題：アリス・スウィート・アリス 原訳：聖体拝領→聖なる恐怖
84点。
「この私が、不思議の国のアリス的なファンタジーを観ると思ってる？それは、大間違いなのよさ！」
っていう、じゃない方のサイコスラッシャー。って言うか、美少女が主人公で、宗教に根差した超ヨーロッパ的な映像は、最早、ファンタジー映画ですのよ。
そして「血みどろの入江」で言及したようなジャッロ（ジャーロ）なんかじゃない、アメリカ映画だけど、最高にジャッロな映画と推したい。スラッシャーに区分されるように、特徴的な仮面を被った殺人鬼は登場するけど、それよりも、生理的嫌悪感を持つような心理描写だったり、プロットはスリラーと深いミステリーに重きを置く。
蛸が出て来て、にゃー！とかじゃないんですよ。ほんとに。
〜あらすじ〜
両親が離婚し、妹カレンと共に母親に引きとられた１２歳の少女アリス。
母は幼く無邪気なカレンばかりを可愛がり、思春期に差しかかったアリスにはあまり愛情を注いでくれない。そんな中カレンが聖体拝領の儀式を受ける日がやってくる。式の最中にカレンは何者かに殺され、遺体には火がつけられる。日頃カレンをいじめていたアリスに疑いの目がかけられる一方、黄色いレインコートの人物が彼女の周辺に出没するようになる…。
以下、ネタバレ。って言うか、感想。
□まだ幼い姉が妹を手にかけるといった、倫理、感情的にも認めたくない恐怖。
美少女姉妹且つ、神聖なはずの教会で事件が起きることも手伝って。
妹カレンを演じたブルック・シールズは当時13歳、彼女の後年の出演作品から美少女と有名になり、この人目当てで当映画を観た人も居るらしい。初聖体拝領の描写から7,8歳の設定だと思われるけど、顔が出来上がっていて寄りはちょっと厳しい。
↑誰にでもすぐ懐いて可愛がられる、要領の良い妹カレン。あるある！
姉アリスを演じたポーラ・シェパードは当時19歳、12歳を演じているのだけど、あんまり違和感は無い。
↑片やなおざりにされちゃう姉アリス。私は味方してあげたいけど、貴方の為を思うから教えてあげる。「アリス、人は鏡なのよ。」
長男…の気持ちはどうか解らないけど、長女である私は、妹…では無く弟が居るけども、アリスの気持ちをあるレベルで理解は出来る。何せ、未だに根に持ってることがあるし。性別が違った分、いじめたことは無い…と思う。あっても可愛がりだ！
□度々描かれる聖体拝領の意味合い。
監督自身が敬虔なカトリック信徒だったそう（後述します）。原題の聖体拝領の意味は、司祭・助祭がパンを聖変化させ、キリストの聖体としたものを、キリストの一致と拝領者相互間の一致を目的に行われるもの。劇中で二回ほどその描写があるけど、アリスはいずれも事が起きて完了出来ていない。これはアリスがキリスト教から異質なものとしてはじかれたことを意味していて、ラストシーンで補完している。
さて、この子はどうなんだろうね。ってのが後味。聖体は美味しいのかな？
端的に言って、監督はホラーの要素の一つとして、不穏な雰囲気にするために宗教を使っている。宗教的儀式なんて実に空虚なものと思わせて。因みに1972年頃に、監督は教会から破門されていて、マジモンの筋金入りだったりする。
□触れたくないけど、触れざるを得ない脇役について。
大家さん。猫が好きで何匹も飼っている小児性愛者で、大巨漢。ズボンの股間部分に広範囲に染みがある。思春期にこんなのが近くに居たら、そりゃ、グレるわ。これについては仕方無い。だけど、その猫ちゃんがアリスによって可哀想なことになる。
直接描写をしないにしても実に嫌な気分になるもの。アリスは関わる全ての人に怒りを激しくぶつけていくので、寄り添う事が難しいキャラ付け。
↑生理的に無理。
当映画を固める脇役は低予算映画だと思えないレベルの粒ぞろい。特に難しい演技を求められるのはアリスの母親役のリンダ・ミラー。感情がぐちゃぐちゃだろうし普通に共感しようが無いけど。
□総括。
作為的に「サイコ」のポスターを映している。当映画内には確かにそれに似た、鬱屈した雰囲気が漂い、誰も幸せにならない、悲しくて惨めなホラーをなぞるものだ。
それを偽善や嫉妬といった、宗教上、忌避する感情で彩り、映画の最後を迎えるまで何が起きているのか視聴者を惑わせるプロット、何なら映画が終わってもね。
それなのに、驚くほどに伏線が張ってあったことに気付いた時に驚愕を覚えること。
そしてこれが一年後の「サスペリア」の間違い探しの⑧に繋がるんだなって。
理由無きスラッシャーが氾濫する中では珍しい。無名な理由が謎です。
