私、これでお姉ちゃんなんだよ・・・!
ちょっと大きめのーでも、大人からすると小さめのー ぺっこぺこのビニール素材の色が付いたボール、あるでしょう?
「お部屋の中でボール遊びをしてはいけません!」ってママに言われてたんだけど、私はお姉ちゃんなので、3つ下の弟とキャッチボールをして遊んであげてたの。
だんだんとヒートアップして、弟の投げたボールがすっぽ抜けて、棚の上の西洋人形が入ったケースにごつんと当たって、床にがしゃんと落ちちゃった。
素材が硝子じゃなくプラスチックで、ケースは割れていなかったんだけど、中の人形は外に放り出されてしまって、うつ伏せに、倒れてた。
アンティークな西洋人形。
私が物心がつく前に死んじゃった、お祖母ちゃんがとっても大切にしていたもので、「ママよりも前から、このおウチに居たんだよ」ってパパから聞いたんだ。
全く同じのは見つからなかったんだけど、雰囲気はこんな感じのお人形さんね。
今のドールってすっごく綺麗で、めっちゃ可愛かったりするんだけど、この時代のは何か不気味なんだよね。子供心に、触れてはいけないものの様に思ってたの。
ママ、ママ、どうしよう。叱られたくないよ!
「あーあ…。」こういう時の弟の立場ってほんとにズルい。やったのは自分なのに、親に叱られるのはお姉ちゃんだって解ってるから、知らぬ存ぜぬで通すのよ。
やられた方の私はこの歳になっても覚えているぞ。一生許さないからな!
でね、抱き起こした人形を表に向けたら…ころんと頭が転がってった。
もうね、泣きべそをかきながら、頭を拾ってね。首のところはガラス瓶の細くなった先っぽみたいなのが見えてたから、そこに頭をぶすりと刺して、ケースを組み立てていって、もとに戻したんだけど…。何となく歪んでいる様な気がする…。
「とりあえず、もう直ったからママには内緒ね。解った?」「うん。」
その夜に見た怖い夢。
私は何をしているのか解らずに、中庭に一人で居た。外はもう真っ暗闇だ。
すると、中庭の外扉がすっと開いて、あの、西洋人形が地面を滑る様にーゆっくりと近付いて来た。その手には銀色に鈍く光るナイフが!
それから逃れようと、中庭からおウチに入りたくても、なぜか開かない!
「やだ!やだ!助けて!ごめんなさい!…ごめんなさい!」もう、ギャン泣きよ。
…そこで何とか、夢の世界から逃げられたんだけど、私、お布団の中に閉じこもって動けなくて、周りも見れない。
だって、私と弟の寝室と 同じ部屋に彼女は居るんだから。
自分に対してごまかしや嘘をつくこと。
一晩中、って言うか、また眠りにつくまでずっと、心の中で謝っていた私だけど。
朝起きて、昨日のキャッチボールでの出来事を報告して、ママにごめんなさいして。
「あの人形を捨てて!お願いだから言うこと聞いて!」って泣いてお願いしたの。
ママも困った顔をしていたけど、あまりにも私が本気だから、パパと相談してどこかにやってくれたみたい。以降、彼女とは顔を合わすこと無く、やって来たけどね。
あれから私は、当時持っていた〝リカちゃん人形〟だったりを、一切合切捨てて。
人形自体に近付きたくなくて、幼少の頃の女友達と疎遠になっていき―
ふと気付いたら、女らしさの欠片も無い、大人になっていた
ってところまでがセットの、本当にあった私のぞっとしないお話なのです。