ファミレスで食事をしていた。
隣の席から聞こえてきたのは、
何度も繰り返される親子のやり取り
だった。
「野菜を食べないとダメだよ。」
「いや。お肉がいいもん。野菜は
苦いもん。」
三歳くらいの男の子は、どうしても
野菜を食べたくないらしい。
その様子を見て、ふと娘が
小さかった頃を思い出した。
娘もまた、多くの子どもたちと
同じように、
野菜よりお肉が好きだった。
私は何とか野菜を食べてもらいたくて、
細かく刻んでチャーハンに入れたり、
そうめんやお肉と一緒に煮込んだり、
すりつぶした野菜と豆腐とひき肉を
混ぜてピーマンの肉詰めにしたり、
毎日のように工夫を重ねていた。
中でも一番印象に残っているのは、
「運命」のメロディを借りたこと
だった。
スプーンにご飯を少し乗せる。
その上に野菜を乗せる。
最後にお肉をそっとかぶせる。
そして、
「運命」のリズムに乗って
「ままままま〜♪ ままままま〜♪」
と大げさに歌う。
娘が笑っているうちに、
「運命のマンマだよ。」と言って、
口へ運ぶ。
娘は何が起きているのか
わからないまま、もぐもぐ食べる。
私は思いきり褒める。
また「ままままま〜♪」。
そんな小さな芝居を何度も何度も
繰り返した。
あの「運命協奏曲」が効いたのか
どうかは分からない。
それでも、気がつけば娘は野菜が
大好きになっていた。
そして、いつの間にか、
「運命」のメロディを奏でる
奏者になっていた。
子育てには、正解があるわけでは
ない。
けれど、親は毎日、小さな作戦を
考えながら暮らしている。
あの日の「運命」の主役は、
ベートーヴェンではなく、
野菜を一口食べてもらうための、
小さな協奏曲だったのかもしれない。
この場所が、あなたにとって小さなベンチになれますように。
𓂃🌿 Flow Note





