「どんなおやつ作ってましたか。」

子育て中の同僚に聞かれた。

「ホットケーキミックスと豆腐を混ぜて、豆腐ドーナツをよく作ってましたね。」


少し離れたところにいる先輩が言った。

「私は焼く。」

「じゃ、私もまず焼いてみます。」


また、その同僚に質問された。


「子供さんたち、小さい時から勉強よくできたんですか。」

先輩がすかさず、

「うちの娘は――」


その、娘さん。

もう何度も聞いたので、いろいろ覚えてしまった。


私は、いつものように黙って、観客席にもどる。

「仕事が立て込んで大変」と言えば、

「私なんか」から、

苦労話キャンペーンが始まる。


つい最近は、仕事のことを確認しようとして、

「一旦黙って。ややこしくなるから。」と言われ、不本意ながら沈黙を選んだこともある。



そして今日、大昔に自分が取った、

ちょっとマイナーな資格について、

問い合わせる電話が入った。


みんな、「何それ?」という顔で見合っている。

「それなら……」

結局また、言葉を飲みこむ。


今日は、そんな自分がもどかしかった。なんだか、自分らしくない気がした。


沈黙が好きなわけではない。


でも、いつからか、

沈黙の楽さを覚えてしまったのかもしれない。


「やっぱ辞めよ。」

そうやって飲みこむ。

また飲みこむ。

そうしているうちに、

毎日が少しずつまらなくなった。


……そりゃそうだ。


面白いことまで、

全部飲みこんでいるのだから。


思えば最近、

沈黙と随分「仲良くしている」。

でも、沈黙にはいろんな顔がある。


言葉が何度も伝わらない時。

言葉が何度も迷子になる時。

沈黙は、鎧になる。

「沈黙は金。」、そんな言葉もある。


娘が集中して、

大事な書類を清書している時。

私は邪魔しまいと、沈黙を選んだ。

それは、見守るための沈黙。



昔、一緒に働いた寡黙な方がいた。

必要な時だけ話す。

それなのに、

なぜか気持ちが落ち着いた。


話したいことがいっぱいあるのに、

黙るしかない時の沈黙。

心だけは賑やかだ。


傷ついた人の隣で、

静かに座って一緒にいる。

そんな沈黙もある。


感動しすぎても、腹が立ちすぎても、

ちょうどいい言葉が見つからない。


それも、沈黙だろう。


意外にも、沈黙はいろいろありすぎて。


沈黙とこんなに付き合ってきたのに、

私は今まで、

こんなに沈黙のことを知らなかった。


どうやら私は、

沈黙と仲良くしているというより、

仲良くしているふりをしながら、

その顔を一つずつ覚えているらしい。


沈黙、沈黙。


あなたの画数よりも、忙しくない?

自分は一体、

何色の沈黙を纏っているんだろう。


そろそろ衣替えを

考えるべきではなかろうか。



この場所が、あなたにとって小さなベンチになれますように。


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