
「垂直と水平」
小高い丘の上、重苦しい四角い箱。二重に隔離された空間。
茅ヶ崎市美術館。浮世絵と新版画展。
江戸末期の浮世絵は…どこかアイドルのブロマイド…あるいは生写真みたいだ。被写体自身を知らないから、さして面白いとも思えない。僕のお目当はむしろ、昭和期の新版画…巴水に光逸。
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絵画→版画→写真→映画→TV→ネット
メディアの発達に連れ、価値基準の指標は「垂直」から「水平」へと変わる。「ひとつの作品に幾らの値段がつくか」…つまり高さの指標から、「どれだけ多く複製されるか」という量の指標へ。ネットでは「再生数」こそが価値の王様だ。
版画というのは、その過渡期にある存在。版によって、刷り師によって出来/状態が違う。発行部数が人気の基準にはなるけれど、版ごとの価値…もっと言うと、一品ごとの価値というのも同時に宿している。
思うに、美術館というのは水平へと移行していくメディアに対する垂直側の抵抗なんだ。そこでは、「この一品にこそ価値がある」という主張がいまでもなされている。「他では見られない」という価値の提示/創出によって、また自らの「特権」をも保持する。