ワイルド・スピード ICE BREAK (2017)
THE FATE OF THE FURIOUS
監督:F・ゲイリー・グレイ
概要
世界的なヒットを記録したカーアクション『ワイルド・スピード』シリーズの第8弾。ヴィン・ディーゼルふんする主人公ドミニクの裏切りによって、強固な絆で結ばれていたファミリーが崩壊の危機にひんするさまを描く。ドウェイン・ジョンソン、ミシェル・ロドリゲスといった続投組のほか、オスカー女優のシャーリーズ・セロンとヘレン・ミレン、クリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッドら豪華キャストが新たに参戦。意表を突く波乱の展開に加え、巨大潜水艦まで登場する氷上カーチェイスにも注目。(シネマトゥデイより)
感想
「なんでもあり」のインフレによって、逆に普通の映画になってしまったワイルド・スピード。
「ワイルドスピード」シリーズ(ワイスピ)の魅力は、あの疾走感と、「そんなアホな…」というぶっ飛び具合の面白さだと思います。普通だったらブレーキをかけてしまうところで、逆にエンジンをふかしてしまう、そんな危うさ。
ワイスピのそんなぶっ飛び具合は、シリーズを通して右肩上がりにインフレを続けていきました。段々とド派手になるアクション、リッチになる映像、超人化していくキャラクター、モンスター化していくクルマ。
でも…そのことによって、逆に普通の映画になってしまったのではないか? 最新作「ICE BREAK」を観ながら、ぼくはそんな感想を抱きました。
「そんなアホな…」という感慨が何に基づいているか、と言えば、それは僕らの既成概念に基づいています。既成概念に則った世界で、それをぶち壊すような何かが行われるからこそ、「そんなアホな…」と思うのです。
(「クルマが空を飛ぶなんて、そんなアホな…」という感慨が何に基づいているかと言えば、それは「クルマは空を飛ばない」という既成概念に基づいているわけです)
右肩上がりのインフレを続けた結果、スーパーマンになってしまったヴィン・ディーゼルたち、『アベンジャーズ』だか『トランスフォーマー』だかってド派手な映像。でも、ここまで来ると、もうなにが起こっても不思議じゃなくなって、「そんなアホな…」という感慨は逆に薄れていきます。
たとえば、『スーパーマン』の世界でスーパーマンが空を飛んでも別に不思議でも何でもありません。だって彼はスーパーマンなのですから。
(そうした先入見を覆すには、さらに驚くべき何かをしなくてはならないでしょう。でも、そうやって「インフレ」を続けていけば、今度はそれ自体が予定調和に見えるようになります。いまワイスピで起こっていることが、まさにそれです)
さらに、インフレしていった結果、また別のことが生じます。それはアイデンティティの消失です。『アベンジャーズ』だか『トランスフォーマー』だかってド派手な映像…だったら、別に『アベンジャーズ』でも『トランスフォーマー』でも良いじゃんっていう。
いくらインフレしているとはいえ、4や5辺りまでは、クルマであることの必然性が作劇にも組み込まれていました。たとえば、米墨国境を越えるにはクルマで坑道を通り抜けなければならない、みたいなね。あれもかなり無理矢理でしたが…それでも、クルマであることの必然性はあったと思うのです。
でも、今回の場合、「別にクルマである必要なくない? 戦車や装甲車で良くない?」みたいなシーンが頻出します(実際、登場しますし)。そして、「戦車や装甲車が出るようなシチュエーションだったら、普通に軍隊が出動すれば良いんじゃないの…?」みたいな気持ちになってしまうわけですよ。
で、そうしたシチュエーションに対応するためにも、登場人物がスーパーマンになってしまう…。
登場人物がスーパーマンになると同時に、彼らはまたリッチにもなっていきます。爽快感を旨とするこのシリーズにとって、教訓じみた失敗は性に合わないんでしょう。さらに、映画の成功によって、映画の予算そのものもシリーズ当初の7倍にも膨らんでいます。シリーズ当初は普通の(ではないが…)カスタムカーを用いていたのに、いまではスーパーカーやバットモービルのような特殊車両が登場するようになっています。
当初のシリーズには一種のチープさがあったわけですが、それはワイスピならではのものでした。1でスープラがフェラーリをぶっち切ったとき、「むしろこういうのこそがカッコいいんだ」と僕らは思ったわけですよ。でも、チープさが失われた結果、そうした独自性もまた失われました。スーパーカーやバットモービル…つまりは『007』や『バットマン』…結局、どこかで見たことのあるような映画になってしまいました。
別につまらない映画ではないですし、ファンならばここで描かれた物語にも満足できるでしょう。ただ、個人的には、4か5辺りのバランスがいちばん好きでしたね(いちばん好きなのは、3で妻夫木くんがGO!って言うシーン-笑)
☆☆☆★(3.5)