トランプ・ゲーム | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)


 ドナルド・トランプ氏が第45代米大統領に選出されました。

 う~ん…いろいろと思うことはあるのですが…。

 印象的だったのは、(渋々)トランプ支持を表明したクリント・イーストウッドが述べた、「内心ではみんなポリティカルコレクトネスに媚びるのはうんざりしているんだ。俺たちは今、お世辞だらけの時代に生きている」という言葉です。

 「みんな仲良く手を繋いで歩いていきましょう」という建前に表だって反論できる人はなかなか居ません。でも、人間、綺麗ごとばかりで生きているわけでもないでしょう。「道を塞いでいるバカがいたら(それが誰であれ)蹴っ飛ばしたくなる」のも人間です。ただ、そうした本音は言えないことになっている。

 ところが、「俺が代わりに蹴っ飛ばしてやるよ」と言ってしまえる人が現れました。それがトランプです。多くの人が今回、それに飛びつきました。これまで表に出てこなかった(したがって世論調査にも現れなかった)そうした本音が、ここで一気に噴出したかのようでした。

 さらに重要なことに、アメリカ人の多くは、現代社会に対して、固着した格差に対して、驚くほどの怒りをため込んでいました。今回の選挙結果からも明らかなように、それは、ぼくら日本人の想像を遥かに越えています。今回の選挙のキーワード、それは「怒り」でした。

 多くのメディアが捉え損なっていたのが、この「怒り」の部分、感情的な部分ではないでしょうか。人は必ずしも理性的な判断をとるとは限らないのです。

 いまや、学者やマスメディアなどの「理知的な説得」は意味をもちません。彼らは結局、既得権益に群がるエスタブリッシュメント(支配者階級)であって、労働者階級などの「怒り」を真に理解できるわけじゃないのです。だから信頼もされない。今回、ほとんどのマスメディアがヒラリー支持に回ったことで、大勢は逆に傾きました。

 イギリスにおいても、多くの知識人たちの忠告にも関わらず、民衆がEU離脱を決めてしまったことが記憶に新しいところです。Conservativeどころじゃない、これは全世界的な革命です。

 忘れもしません。トランプ選出が確定した夕方のニュース。とある日本のキャスターが「トランプ支持者たちは彼の政策をよく分かってないで投票したように見える」などと述べていたことを。あなたたちのそうした傲岸な姿勢こそが、こうした結果を生んでいるんだ、ということになぜ気付かないのですか。

 一票は一票なんですよ、考えた結果であろうがなかろうが、あなたたちの気に入ろうが入るまいがね。その一票は尊重されるべきです。そのような侮蔑的な発言、民主主義者としては許しがたいです。

 我が国においては、民進党も大概ですが、TPP反対のトランプが選出されたのになぜだかTPP採決を決めてしまった自民党も相当です。とくに敵なし状態になってからはまた一段とひどい…にも関わらず、マスメディアが叩けば叩くほど、自民党の支持は上がっていきます。反対に、知識人たちの多くが支持するリベラルは、いまやそのこと自体によって大衆の支持を失っています。

 そのことについて、彼らはもう少し真剣に考えなければならない、とぼくは思います。

 話を大統領選挙に戻しましょう。とくに日本のマスメディアでは、今回の選挙期間中、トランプ個人の特異なキャラクターに話を収斂させようとする傾向が見られました。そうしてラベル付けをして、安心しようとしていたのです。「こんな奴が大統領になれるわけがない」とね。

 でも、実際、トランプは大統領に選出されました。真に重要だったのは、トランブ個人のキャラクターよりもむしろ、ああいうキャラクターの人がなぜここまでの支持を集めるか、だった筈です。結局、トランブは大統領になります。どうするんですか? いったいそのことについて本気で考えてきたんですか?

 まだ頭を切り替えられていない人も多いでしょう。しかし、どんなキャラクターの人物であろうと、トランブは現実にアメリカの大統領になるんです。そのことから目を背けるべきではありません。

 実際に大統領になったら、ある程度、妥協的な政策を打ち出すのではないかという「希望的な観測」もあります。そのことは、勝利宣言で彼が述べた「すべてのアメリカ人の大統領になる」という言葉からも明らかでしょう。その観測には、ぼくも半分は同意します。

 ただ同時に。あまり楽観視すべきではないとも思います。彼は民衆の「怒り」をベースに出てきた大統領です。変えられなかったらその「怒り」が自らに向かうのは火を見るよりも明らかでしょう。まして今回は上院下院とも共和党が握っており、相当に「強い」政権になるのですから、なおさらです

 これまで、多くの人が、彼の語る政策を「リアリティがない」とか「机上の空論である」と見なしてきました。しかしながら、彼は実際に大統領になったのです。なってしまったのです。もはや、「リアリティがない」と言う方が「リアリティがない」ということに気付かねばなりません。


追記:
 分かってないな~と思うのは、トランプが50%以上の支持を集めたのは「所得が5万ドル以上の層」であることをもって、トランプの支持層が「白人低所得者層」じゃなかったとする見方が出てきたこと。

 いや、それは単に、旧来の共和党の支持者が自動的に共和党の候補者に投票しているからそうなっているんであって(南北戦争以来の「赤い州・青い州」対立を甘く見ちゃいけない)。

 アメリカでは非白人系の所得が低い傾向があるし、またそうした人々は民主党を支持する傾向がある。だから、人種ごとの違いを見ずに、単に所得別で区切れば、民主党候補者の支持層の所得が共和党候補者の支持層のそれよりも低く出るのは当たり前。実際、前回の大統領選挙でも「所得が5万ドル以上の層」はロムニーに投票していた

 問題は、なぜそうした共和党の候補者としてトランプが躍り出たかってことで、その背景には「白人低所得者層」の熱烈な支持が欠かせなかった。実際、共和党の予備選では、富裕層の支持はマルコ・ルビオなどと拮抗していた↓

 いち早くトランプ氏の「勝利確実」が出たジョージア州では、高卒以下の半数近くを固めたほか、大卒以上でも首位を獲得。年収10万ドル(約1100万円)以上の富裕層はマルコ・ルビオ上院議員(44)とほぼ同率だったものの、それ以下の中低所得層は約半数の圧倒的な支持を得た。
(中略)
 穏健派が比較的多いバージニア州では、トランプ氏とルビオ氏が激しく争った。ルビオ氏は女性、大卒以上、非白人、年収5万ドル以上の中高所得層らでトランプ氏を上回る支持を得て健闘した。

追記2:
 もうひとつ見過ごせないのは、今回の大統領選挙でトランプ勝利の大きな要因となった五大湖周辺の産業州、いわゆる「鉄さび帯」(ラストベルト)の動向。ここでもやはり、白人の労働者階級がカギを握っていた。

トランプがラストベルトの白人ワーキングクラスを軸に、ヒラリーが南西部のヒスパニックを軸にして、それぞれ支持をひっくり返すという想定だった。結果は、トランプはそれに成功し、ヒラリーはそれをなし得なかった。正確には、まだヒスパニックの得票数だけでは南西部の現状を覆すことができなかった、ということだ。

 そうした背景を見もしないで話をするのは、本当に分かってないなあと思う。