君の名は。 (2016)
監督:新海誠
概要
『星を追う子ども』『言の葉の庭』などの新海誠が監督と脚本を務めたアニメーション。見知らぬ者同士であった田舎町で生活している少女と東京に住む少年が、奇妙な夢を通じて導かれていく姿を追う。キャラクターデザインに『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』シリーズなどの田中将賀、作画監督に『もののけ姫』などの安藤雅司、ボイスキャストに『バクマン。』などの神木隆之介、『舞妓はレディ』などの上白石萌音が名を連ねる。ファンタスティックでスケール感に満ちあふれた物語や、緻密で繊細なビジュアルにも圧倒される。(シネマトゥデイより)
感想
1.
思えば、星がどうしたとかいうSFファンタジーな設定と、写真を基に描かれるリアルな現実との距離、それが本来の新海作品だった。『雲の向こう~』と『秒速~』では、その現実がさらに都会と田舎に分かれる「新海モチーフ」が明らかとなった。
あれから三年。ようやく新海さんが帰ってきた。最初のシーンからもう「お帰りなさい」って感じ。『雲の向こう~』や『秒速~』でおなじみの田舎×都会×宇宙。あの気恥ずかしくなるような新海節ポエムも健在だ。
ダサくて、未熟で、洗練されてなくて、なよくて、恥ずかしくて、でも新海さんはそれで良いんだと思う。それらがすべて胸に突き刺さっていくわけだから。前2作では自分の土俵で勝負していなかったけれど、ようやく自分の土俵で勝負をした。そんな印象。
2.
もちろん、ただ元に戻ったわけじゃない。この作品を見た多くの人が感じ取るのが大林宜彦要素だろう。思えば、大林映画も、SF的な主題と、尾道という土地とが分かちがたく結び付いている。その意味で新海作品は、じつはもともと大林的要素を備えていた。でも今作は、そうした結び付きより何より、まんま大林映画だ。
「君の名は」って主題だって、昭和期のドラマから来ている。「オリジナリティがない」と批判する人はいるかも知れない。でも、あえてこういうベタをやるところが新海さんらしいと僕は思う。変にひねった作品を作るよりよっぽど良い。展開もベッタベタのベタだけれど、このベタベタさが、新海さんの弱点であるストーリーテリングを補っている。
この映画、なにより単純に面白いんだ。細田さんの「時かけ」がそうであったように、この映画もやがてはこのジャンルのクラシック(古典)になっていくんじゃないか…という予感すらある。
3.
そもそも、この映画は「座組」の時点で勝っている。新海さんはクリエイターとして抜きんでた資質を持っている人だけれど、また同時にいくつか弱点もあって、それをこの座組が見事に解決している。この映画、ダサさとかベタベタさが気にならないのは、きっと、キャラデザや作画や声の演技や背景や主題歌などで、うまいことコーティングしてあるからだ。
『ちはやふる』に『シン・ゴジラ』に『君の名は』…最近、東宝関連がもの凄くいい作品を送ってくる。その中心にいるのが、今作でも製作を務めている市川南さんなのだろう。彼の関わる作品は、みな質が高い。
今作で企画・プロデュースを務めているのは、「せか猫」の作者でもある川村元気さん。どの程度内容に関わっているかは分からないけれど、売れセンと泣き所を押さえるにはもってこいの人材だ(追記:新海さん曰く、「脚本段階に関していえば、プロデューサーの川村元気の存在が大きかった」らしい)
新海作品初期によく批判されたキャラクターデザインには、いまや「日本一」と呼んでもいい田中将賀さんを迎えている。『あの花』など長井龍雪作品の印象が強い田中キャラが、ここではまた違う演技を見せているのが興味深い。(良い意味で)ケレン味の強い長井作品とはまた異なる印象があった。
もうひとつ、作画面で大きいのは作画監督に安藤雅司さんを迎えていること。「ジブリもどき」どころか、本当のジブリの作画監督(もののけ姫、千と千尋)を連れて来ちゃったんだ。本物を連れてくることで、逆に「ジブリっぽい」感じから抜け出せている。この二人を連れて来ちゃったことで、この映画はもう半分くらい成功している。
さらに美術では、新海作品ではおなじみの丹治匠さんが復帰している。これも大きいのかも知れない。もともと「背景が物語る」新海作品にとって、美術の役割は大きい。前作『言の葉〜』では、あまりに写真に寄り過ぎていて、その点もイマイチだった。今作では写真のように描くのではなく、描いたものに(ボケなどの)写真的処理を施している。その辺のバランス感覚が良い。『言の葉~』で見せた、あの変な絵柄の不統一もなくなっている。
あとは声…主人公瀧役の神木くんね。序盤のとあるシーンでは、もう可愛すぎて思わず「神木キュン!」って言いそうになったわ(笑) それから、ヒロインの三葉役にはあの上白石萌音(カミシライシモネ)ちゃん。本職じゃないのに、なんだかまったく違和感がなかった。あの子はやっぱり天性のものがあるのかも知れない。
主題歌のRADは…ハマってるんだけれど、ちと軽いかな…と思えるシーンもある。音楽的には5点満点というわけにはいかないかな。まあ、中高生向きにはなったかもね。くまも気になっていたみたいだし…って、くまもう高校生じゃなかったわ!←
4.
ケチつけるところは余りないのだけれど、ひとつ言えるのは、「君の名は」という主題が、物語本体といまいち有機的に結び付いていないこと*。そのせいか、わざとらしさが浮かび上がっている。それはまた、ラストシーンのあの弱さにも結び付いている。
(追記:この映画には「町」という大状況と、「私と君」という小状況があるのだけれど、「君の名は」という主題は、直接的には小状況の方にしかかかっていない。これが例えば、この主題を解決することが大状況の問題を解決することに結び付いていたら、「おお…」ってなる)
それに、あの終わり方、(シチュエーション的には『〇〇』に近いけれど)演出的には『言の葉の庭』に近い。あの演出、僕はいまいちピンとこないんだよな…。最後のところでガツン! と来れば5つ星だった。
最後に、「3.11要素」にも触れておこうか。なんだろうな…『シン・ゴジラ』でも感じたこと。あれはもう僕らにとって、ひとつの原風景というか…みんなが持っている共通の景色というか…そういう風に心の奥深くに刻み込まれているんだなって。
☆☆☆☆★(4.5)