銀の匙 Silver Spoon(4.5) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)

 
『銀の匙 Silver Spoon』
 
2014年日本、111分
 
監督:吉田恵輔
 
主演:中島健人
 
概要
 週刊少年サンデーで連載され人気を博しテレビアニメ化もされた荒川弘のコミックを、『麦子さんと』などの吉田恵輔監督が実写映画化した青春ドラマ。北海道の農業高校に入学した主人公が、酪農実習や部活に苦悩しながらも仲間たちと絆を深め、農業をめぐる理想と現実のはざまで葛藤しつつ命の大切さを学んでいく。主演は、アイドルグループSexy Zoneの中島健人。共演には広瀬アリス、市川知宏、黒木華、中村獅童など多彩なキャストがそろう。(シネマトゥデイより)
 
はじめに…
 ボクは農大を受験したことがある。農業をやりたかったわけじゃなくて、砂漠に木を植える的なね…そういう研究に興味があったのだけれども。結局、そういう実学とは(ある意味で)正反対の芸術学科を選んだ。
 
 その対極の二つの道を天秤にかけた…というのは、ボクの中で少しだけ重要な意味を持っている。芸術学やら美学やら、一般に虚学と呼ばれるものは、直接に人の役に立つものじゃない。だからって意味がないわけではない筈だけれど、やっぱり、直接に人の役に立てるって凄いことなんだ。
 
 宮崎駿さんが「宮沢賢治はえらかった。なぜならば、終始、彼は土の人だったから」と言う気持ちが、ボクは少しだけ分かる。彼が「アニメなんて見てないで外に出ろ」という気持ちもね。
 
 この先、おそらくボクは、何度でも迷い続ける。芸術なんて学んで何の意味があるんだ…とね。それを振り切るために、ボクは二つの道を天秤にかける必要があったんだ。いま思えばね。
 
 『銀の匙』は漫画で、アニメで、映画で、土をいじること、家畜を育てることの…大切さってんでもないな、意義ってんでもない…そうした土をいじったり家畜を育てることが、いったいどういうことなのか、ということを描いている。
 
 芸術ってのは(何かを伝えるというよりは)それ自体に価値があるんだ…という議論もあるけれど、こういうことが出来る芸術ってのも悪いもんじゃない…そう思える。もちろん、実作とそれを研究するってことの間に、もうひとつ段階があるんだけれどさ。
 
感想
 さて、この映画版は実写だ。当然、その辺の土の匂いというかな、生き物の匂いというかな、そうしたものはアニメよりも濃厚になっている筈…と思いきや、これが不思議とそうでもない。
 
 良くも悪くも、かなり垢抜けたあっさりとした仕上がりになっている。それは絵作りの面でも、物語展開の点でもそう。手際よく纏まっているけれど、欲を言えば、生死というか、そうした生々しさと、青春ドラマがもっと有機的に絡んでも良かったかな。
 
 ただ…ボクはこれはこれで結構好きだなあ…。あのね、空撮の場面があるでしょう。予告編にも映っているやつ。あれを見たときに、ボクはこの映画好きだなと思えた。ああいうところにお金を使う映画って良いよね。
 
 あれがひとつあることで、地上の生々しさというか、存在の重さというか、そうしたものと一歩距離を置いた視点を手に入れることが出来る。それが物語にも一種の軽さ…羽…を与えていて、重い話題でも少し肩の力を抜いて見ることができるんだ。
 
 それでも、やはり実写だから、と畜の場面は(結局のところ、ただの絵でしかない)アニメとは違う緊張感がある。だからこそ、その後の調理や食事もなにか神聖なものに感じられてね…あれはやっぱりアニメでは出来ないことだなあ…と。
 
キャスト
 主人公の彼、ジャニーズなんだってね。…って、なんだかじいさんみたいな言い方だな(-_-;)
 
 それはともかく…なかなか良いよね、彼。ときおり、演技(というか立ち姿というかな)がぬるく感じられるところもあるけれど、それでも、なかなか良い。これはこれで八軒くんとして成立していると思う。
 
 芸能界を席巻するジャニーズのなかには、たしかにどうしようもない(作品自体をスポイルしちゃうような)「役者」も居るけれど、いまや日本有数の役者に成長した岡田くんをはじめとして、彼みたいのもいる。まあ、歴史も違うけれど、AKBはそういう面ではまだまだジャニーズの足もとにも及ばないな…と( ..)φ
 
 逆に…御影さん役の子はもうちょっとこう…素敵女子感があっても良かったかな。あれだと、なんというか芋っぽすぎて、御影さんの「掃き溜めに鶴」感というか、八軒くんが憧れているという感じが出ないでしょう?
(それに、外見はああなのに中身はあれという御影さんのギャップが出ない)
 
 ただ、それもある程度、監督の意図通りなのかな。絵作りや物語展開と同じように、そうした「恋愛要素」も脱臭されて、爽やかな「お色気要素」に回収されている。アイドルの主演映画って、別にこれで良いんだよね。
(もちろん、もともと『銀の匙』自体の恋愛要素が濃くないから出来ることなんだろうけれどね。キスシーンだの何だの売りにするようなアイドル映画、ボクはもうウンザリなんだ)。
 
 あとは、脇のキャスト。これがなにより素晴らしい。お父さん役には吹越満さんとか、友達のお母さん役には西田尚美さんとか、その辺のキャストがとても贅沢。そうしたところを実力派で固めたことで、すごく映画が引き締まっている。
 
 それに遊び心もあるんだ。『ポリスアカデミー』とか『トップガン』に出てくる女教官を連想させるようなグラサンの女教官は…え~と、誰だ…グラサンを外すと…おお、フッキーか。
 
 出色なのは、御影ファミリー。お祖父さん役が石橋蓮司さん、お父さん役が竹内力さん、その弟役が哀川翔さんとか、もう「一家」かと(笑)。(おばあちゃんは出すべきだったと思うけれど)
 
 そういう遊び心が、面白いじゃない。こういうことを思いつくやつは、きっと良い映画を作る。だって、映画作りを楽しんでるもん。そう思える。
 
 追記:ああ…それから、EDテーマにゆずを起用したことも高評価。あそこはやっぱり、アイドルソングじゃ締まらないと思う。
 
☆☆☆☆★(4.5)