「届かなかった距離」
岡田奈々…なぁちゃんは、はじめから泣いてしまうくらい緊張していた。「ウィズ~オズの魔法使い~」最終オーディション。
だけど、ダンスが始まってからは圧巻だった。抜群のキレ。震える身体を力づくで押さえつけるように、全身全霊をかけて踊ったダンスは鬼気迫るものがあった。まず一点先取。
15:26なあちゃんの鬼気迫るダンスすごかったな…
第二審査、演技力。正直に言うと、ボクはここに少し不安があった。『女子高警察』の頃からそうだけれど、なぁちゃんは「演技というものはこういうもの」と決めてかかる傾向がやや見られるからだ。(真面目な)なぁちゃんらしいんだけれどね。
審査開始。その傾向は少し残っているんだけれど、それよりも「ドロシーが憑依したように」と本人が言うように、感情を込めまくった演技でその「型」を打ち破っていく。そうしたところが少し現代的な感性を感じさせる演技で、その辺がどう映るかな…と思ったけれど、亜門さんは高評価だった。
演技経験がなくて、この審査がもっとも不安視されていた田野ちゃん。ここを無難に切り抜け、ニコ生ではトップの得票を得ていた。ただ、気取った演技がボクには少し気になった。終わってみれば、梅ちゃんの演技の安定感が際立っていた。
第三審査、歌唱力。ここが最後の大勝負。なによりミュージカルなんだ。歌えなきゃお話にならない。勢いだけじゃどうにもならない部分が出てくるのも、この審査だ。
一番手、梅ちゃん。崩れた。緊張感からか何なのか、歌唱後、頭を抱えて「舞台には魔物が棲んでいる」と自分で言ったくらいの出来。
二番手、なぁちゃん。出だしから、グイっと引き込まれる。これは行ける…そう思った。この時点で、なぁちゃんが一歩前に出たと思った。
15:44これは…なあちゃん、勝ったんじゃないか…
しかし、そう思ったのも束の間、もっとも見せ場となる、声量が必要な場面で声が割れてしまう。
15:45ちょっと声が割れたか…
そうだ…もともと声が細いなぁちゃんは、以前からこうした声量を必要とする部分に不安があった…。ああ…これは…。
そして、四番手、田野ちゃん。明らかに安定している。
15:51田野ちゃん歌うまくなったな…これ強いな…
審査終了。三番手ちゅり、五番手はるごん、六番手ゆいはんは、のちに亜門さんが指摘したように、ともに高音域に弱さが見られた。
ちゅりはよりコメディ向きだと思えた。あの子は走っているだけで微笑ましく思えてしまう。それは天性のものなんだけれど、この作品とは少しズレている気がした。
自由人のはるごんは、いいところもあったけれど崩れることが多かった。今回の審査中、もっとも伸びたと評されたゆいはん。物語性を感じさせる特別な存在だったけれど、歌唱審査では一歩譲ったように見えた。
残るは、明らかにドロシーの雰囲気を持っている陽性の田野ちゃん。それとは対照的だけれど、鬼気迫るものがあったなぁちゃん。そして、最後には崩れたけれど、前回の準優勝者で、高度にバランスが取れていた梅ちゃん…。
審査を終えた亜門さんがコメントする。「今回、思ったより演技で差がつかなかった。だからダンスと歌で評価する」。
ボクはこの時点で分かった。だれが落ちるのか。何を言っているのか…それはハッキリしていた。演技審査で高評価だったなぁちゃんが落ちるということ…。演技は抜群というわけではなかったけれど、ダンスが圧倒的で歌も上手く纏めた田野ちゃんが受かるということ。
結果が発表される…。オーディションを通ったのは…
「梅田彩佳」
悲願がかなった梅ちゃんの泣き声が舞台に響き渡る。
ボクは少し驚いた。梅ちゃんは確かに実力ではNo.1だけれど、最後の歌唱審査で崩れていたからだ。ただ…同時に納得もした。
前回の審査でも、もっともドロシーっぽかったのが梅ちゃんだったし、今回はそこからさらに上達していた。たしかに歌唱審査では崩れたけれど、梅ちゃんの歌唱力はもともと分かっている…というわけか…。
と、考えていたら、ちょっとしたサプライズが起こった。2人目の発表。ダブルキャストだ。もともと1人という予定だったけれど、ダブルキャストというのはありえると思っていた。切磋琢磨してやっているけるからね。
2人目、これはもう自信があった。間違いなく田野ちゃんだ。
「もうひとりのドロシー役は…田野優花」
田野ちゃんが泣き崩れる。あいかわらず田野ちゃんは表情が豊かだ。驚き喜び悲しみ、そうしたものが田野ちゃんの目にはいつも溢れている。去年、ボクが「もっともAKB48らしいメンバー」「見ていてもっとも楽しい」と言っていたのが田野ちゃんだ。
オーディション通過者に続いて、落選者にも亜門さんからコメントが出る。「感性すごいね!」というのは亜門さんのなぁちゃん評だ。同時に「発声練習がんばって」という注文もあった。さもありなん。
なぁちゃんはいま、無冠の帝王という感じで、苦しい時期にあると思う。でもね…ボクは絶対に信じているんだ。あの子の光を。勝ち始めたら、きっと止まらなくなる。
がんばれ…なぁちゃん。
そして、おめでとう。梅ちゃん。田野ちゃん。