オール・ユー・ニード・イズ・キル
Edge of Tomorrow
2014年アメリカ、113分。
監督:ダグ・ライマン
主演:トム・クルーズ
概要
作家・桜坂洋のライトノベルを、トム・クルーズ主演で映画化したSFアクション。近未来の地球を舞台に、ある兵士が戦闘と死をループしながら、幾度も戦闘するうちに技術を身に付けていくさまを描く。監督は、『ボーン・アイデンティティー』『Mr.&Mrs. スミス』などのダグ・リーマン。主人公と共闘する特殊部隊の女兵士には、『プラダを着た悪魔』などのエミリー・ブラントがふんする。トムらしいバトルシーンはもちろん、日本の小説がハリウッド大作として派手に活写されていることにも期待。(シネマトゥデイより)
感想
世の人はすべて、トム・ハンクス派かトム・クルーズ派に分かれる…ってのは、もちろん大げさなんだけれど、この2人のトムは好対照だと思う。
知的で内省的で、どこか野暮ったくて深みのあるトムと、キザでハンサムでスタイリッシュで、考えるよりも先に行動するトム。どちらがどちらだ…というのは、説明するまでもないか。
ボクは…ずっとトム・クルーズ派だ(もちろん、トム・ハンクスは素晴らしい俳優だと思うけれど)。たぶん、「三つ子の魂百まで」で、『トップガン』の影響が大きいんだろうね。
トム君は、良くも悪くもアメリカ的なものを代表しているように思う。この、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』もまた、そうしたアメリカ的なものが典型的に現れている作品だ(あるいは、それを利用していると言うべきかな)。
日本の小説家、桜坂洋さんによる原作。まるでゲームのようにリセットを繰り返す物語。原作を生んだ日本のファンへのサービスのように、所々に日本語が混じったりしている(あれってインターナショナル版でもそうなのだろうか?)。日本という文脈で語れるものはいくつもあるだろう。
だけど、これは紛れもなくアメリカの映画だ。『スターシップ・トゥルーパーズ』を連想させるような、軍隊のマチズモとSFという組み合わせ、『プライベート・ライアン』を連想させるような上陸シーン。これは紛れもなく、ハリウッドが培ってきたものの上に乗っかっている映画なんだ。
日本がこの原作を映画化していたら、間違いなく『図書館戦争』のようなものか、あるいは『永遠のゼロ』のようなものになっていただろう。いまの日本には、「戦争映画」はあっても、「軍隊映画」というものは(基本的には)存在しない。
そこに決定的に欠けているのは、ああした軍隊的なマチズモ(マッチョイズム)だ。いまや日本の男子はみな精神的に去勢されている…というのは、他ならぬボク自身の実感でもある。こういう映画は、いまの日本人には決して作れない。
この映画においては、「リセット」してトライ&エラー(trial and error)を繰り返すという要素も、ゲームというよりは、むしろ「習うより慣れろ」「実戦こそ最高の訓練」という軍隊的なマチズモへと回収されている。
何度も何度も繰り返される、腕立てをする場面の、エミリー・ブラントの肉体美! そこには甘っちょろい「萌え要素」なんか微塵も感じられない。これがすべてを物語っていると言っても良いかも知れない。これはもう、ひとつの思想だね。
(アメリカという国のマチズモが特異なのは、女性にさえもマッチョ的な強さを求めるというところだ。そういう意味で、それはラテンアメリカ的なマチズモ=男性優位主義とは似て異なる。むしろより単純化されたマチズモ=筋肉至上主義なんだ)。
それでいて、この物語は、単に猪突猛進で一直線に進むわけではなく、何度も繰り返していく内に別の道を見つけ出していく。そこが、また小憎らしい。
(単なるマチズモ賛美に終わっていないところが、この映画の重要なポイント。軍隊的なマチズモが万能ではなく、行き止まりの壁にぶち当たる…という点では、むしろマチズモ批判にすらなっているかも知れない。実際、そうしたものを笑い飛ばすようなところもある。いずれにせよ、批判する対象がなければ批判も成り立たないわけだ)
都合8人(!)が関わっているらしい脚本には隙がない。物語としてちゃんと起伏に富んでいるし、感情的な部分もしっかり描写している。
演出も「リセット映画」にふさわしくテンポが非常にいい。特にオープニングの切り方なんか秀逸だったし、ジェットコースターのように緩急をつけたリズムが心地よい。あ、上手く行かない…と思ったらすべて切っちゃえば良いんだから、そりゃあリズムも良くなるよね。
せっかちな現代人にピッタリの脚本と演出。この映画はホント、バカみたいに面白い。そう…トム君の映画って、だいたいいつも、バカみたいなんだ(「脳筋」と言った方が良いかな)。そして、そのバカさが(日本の原作を得て)この素晴らしい映画を作り上げた。
(そして、やっぱり日本人としては、この映画の最初の「芽」を日本人が生んだ…というのは誇らしい気分になる。日本だから良い…と言うのではなく、面白いものが結果的に日本産だったということがね。と、同時に、こういう映画は決して日本では作れないってことも分かるから、悔しさも感じる)
☆☆☆☆☆(5.0)