『プレーンズ』
Planes
2013年アメリカ、92分
監督:クレイ・ホール
主演:デイン・クック
概要
ディズニー / ピクサーが生み出した『カーズ』シリーズの世界観から生まれた、飛行機が主人公のアドベンチャーアニメ。世界最速のレーサーを夢見るも、高所恐怖症で低空での飛行しかしない農薬散布機ダスティが、仲間たちに支えられながら世界一周レースに挑む姿を描く。監督は、『ティンカー・ベルと月の石』のクレイ・ホール。飛行機たちが猛スピードで大空を駆けるフライトアクションの迫力に圧倒され、夢を追い掛けるダスティの冒険が胸に響く。(Yahoo!映画より)
CGと予算…
「カーズ」のスピンオフ映画。当初はビデオ映画として企画され、予算は『カーズ2』や『モンスターズ・ユニハーシティ』の1/4(5千万ドル)に過ぎず、そしてなによりピクサー作品じゃない。この時点でもう勝負は決まっていたのかも知れない。それくらいのものとして観に行くのがちょうど良い。過度な期待は禁物。
もちろん、ビデオ映画であっても面白い作品はある。傑作『トイ・ストーリー 2』は、『プレーンズ』と同様、当初はビデオ映画として企画されていた。その予算も、現行のピクサー作品のフォーマット(2億ドル)の半分以下(9千万ドル)に過ぎなかった。
もちろん、そんな『トイ・ストーリー2』にもチャレンジ精神はあった。光の反射や(人の)髪の毛の表現などは『トイ・ストーリー』よりも格段に進化していたし、そもそも予算だって(『トイ・ストーリー』の大ヒットによって)『トイ・ストーリー』の3倍になっている。
だけど、(最近はそうでもなくなっているけど)ラセタ―/ピクサーがエラかったのは、描ける範囲のものしか描こうとしなかったこと。ムリそうなものは脚本の段階で削ってしまう。作品全体の統一感を保つためには、予算と相談しながら、手を広げ過ぎないようにする必要があるってことだ。
ひるがえって『プレーンズ』はどうであろうか。『カーズ2』の1/4、『トイ・ストーリー2』のさらに半分の予算なのに、全世界が舞台になっている。しかも今回はモノが飛行機だけに、広大な空間をレンダリングする必要がある。これは作品全体の完成度に著しいダメージを与えている。明らかに手を抜いたような、チープな作りの建物。安っぽいセットのようなCGが散見される。まるで、CGのB級映画だ。
もうひとつは技術の問題。一昔前なら、「技術はスゴイけど…」って評価になったろう。でも、『カーズ2』や『モンスターズ・ユニバーシティ』を見たあとでは、この映画の技術は明らかに見劣りする。とくに『モンスターズ・ユニバーシティ』でグローバル・イルミネーションによる照明効果の凄まじい威力を見せ付けられた後だけに、この映画の照明効果はかなりチャチな感じがしてしまう。技術を競い合うようなところのあるCG映画にとって、技術的に前のシリーズより見劣りがするというのは致命的なんじゃないかとボクは思う。
世界観とリアリズム
ちゃんと作り込まれていないというのは、世界観の問題でも同じことが言える。世界観と、そこに与えられるリアリズムの問題。『カーズ』の場合、明らかに、NASCARとその最終戦デイトナ500がモデルになっていて、そこで培われてきた様々なもの(映像感覚やドラマ)が存分に活かされている。
『プレーンズ』はおそらく、「レッドブル・エアレース・ワールドシリーズ」や「リノ・エアレース」がモデルになっている。でも、かつての飛行機レースの要素もあって、特に長距離レースの要素が取り入れられている。その会場で勝敗を争うのではなく、都市間の長距離レースになっているのだ。こうして複数の要素を雑多に取り入れたことによって、ピントがボケてしまっている。
この映画、雰囲気には前述のような会場で勝敗を争うような短距離レースになっているんだけど、長距離レースの場合はむしろタイムが重要だ。どっちが先にチェッカーフラッグを切るかというようなものにはならない。時計とのにらみ合いになる。基本的に飛行機の長距離レースというのは孤独なものだ。
これは、単に設定に矛盾がある(たとえば、各都市への到着タイムは各機バラバラなのに、それがまったく反映されていない。ポイント制ならばそれも分かるけれど、そうはなっていないから、事実上、最期の区間だけの勝負になっている)ってだけの問題にとどまらない。
それはつまり、長距離レースのパイロットの心境など諸々ふくめて、これまで培われてきた数々のものを反映しておらず、ただの作り物になってしまっているということだ。それは『カーズ』とはまったく異なる部分だ(じつを言うと、2もその部分は良くなかった)。
リアリズムの問題…2
このリアリズムの問題は、レース部分に留まらない。「車」(カー)ってのは生活に密着したものだ。アメリカの場合は特にそうで、その車が擬人化されて、寂れた町「ラジエータースプリングス」で暮らしているってのは違和感がない。『カーズ』は全体、そういう生活に密着した「車文化」ってものに対する愛が感じられた(繰り返すようだけど、2はそうではなかった)。
でも、飛行機ってのは、ちと特別だ。人の生活とちょっと遠いんだよね。だから、飛行機を主人公にすると、その部分を描けなくなってしまう。だって、街の中を歩く飛行機なんて変だからね。むしろ、飛行場とガレージだけで完結するドラマだったらリアリティがあったかも知れないけれど、この映画はあまりそういうことには留意していないようだった。もちろん、街には出せないんだけど、なんとなくそこで飛行機が生活しているような空間を演出している。結局、そこも作り物になっているんだ。
そして、作り物になってしまっていることで、これまで数々の映画で培われてきたようなもの、あるいは生活の中で培われてきた感覚を活かすことができていない。『カーズ』で主人公ライトニングがラジエーター・スプリングスに到着する直前の場面なんて、「いかにも」(アメリカの寂れた田舎町)って雰囲気が良く出てたけれど、ああいうのが出来なくなってしまう。
ストーリー…
こうした「行き届いてなさ」は物語にも通じている。『カーズ』は元々スターのライトニングが、田舎町ラジエーター・スプリングスで居場所を見つけるという物語だった。一方、『プレーンズ』はそれを綺麗に裏返した話になっている。つまり、田舎のサエない農薬散布機だったダスティーがスターを目指すという物語だ。でも、それって『カーズ』の言いたかったことを見失っちゃいないだろうか。
『カーズ 2』もそうしたものを見失っていたけれど、あれはそれでも「良く出来ていた」。『モンスターズ・ユニバーシティ』や『トイ・ストーリー 3』のように、肝心な部分を見失ってしまっても、作品として完成度の高いものを作ってしまう。それがピクサーの良さでもあり、時に危うさでもあった。
でも、今作はピクサー制作じゃない。物語としての完成度も映画としての完成度も高くはない。なんだろう…なにを考えて作ったのか良く分からん映画。『カーズ』のブランドを使えば、こういうものでもそれなりにお金を稼げてしまう。オモチャも売れるしね。なんか、そういう裏事情が見えてしまうような…そんな感じがした。
そこには空がなかった。
☆☆☆★(3.5)