
『素材』
写真は、その黎明期から素材として用いられてきました。詩人ボードレールがシニカルに評したように、美術史において、写真は典型的には絵画を描く際の参考として使われるものだったのです。しかし、そこでの写真はあくまでも参考であり、美術作品の中に直に取り込まれるものではありませんでした。
さらにさかのぼれば、カメラ・オブスクーラが捉えた映像を鉛筆でトレースしていたカナレットのような例があります。とは言え、これもまた一種の参考のようなものであり、(当然ですが)直に写真を取り込んだものではありません。
時代は下り、20世紀に入ると、写真自体がひとつの作品と捉えられるようになる一方で、ラウシェンバーグのコラージュ作品のように、写真そのものを美術制作に用いることが行われます。美術史における素材としての写真の使用はここに始まります。
さらに、デジタル時代になり、写真はそれ自体、既に美術史の一部門として受け入れられているように見えます。しかし、素材としての写真の役割が無くなったわけではありません。たとえば、テクスチャーとして、CG制作に用いられる写真などがそうです。また、写真を合成して作品を作ることや、写真を下敷きに作品を制作することも一般的に行われています。
デジタル時代における新しいことは、写真がどこに用いられているか判別できないということです。そこにおいては、写真は写真としての形を留めないのです。いまや、写真と他の美術との境界は極めて曖昧で見えにくいものになっています。素材としての写真は、写真としての素材、モノとしての素材から、細切れになった断片としての、あるいは(他の溶液と溶け合ってしまう)溶液としての素材に変わってきています。
この柔らかさ、流動性こそが、デジタル時代の写真を特徴づけるもののように、ボクには思えます。