ロンドン五輪女子サッカー:グループステージ第3戦
なでしこ 0-0 南アフリカ
このような試合を目にした後で、何か言うべきことはあるでしょうか。佐々木監督は「後半途中での経過のなかで、ドローを狙える展開であればそういうことでいいと伝えました」と言ったようですし、後半終了間際にスウェーデンが同点に追いつかれたという情報を得てからは、明らかに鳥かご(=パスを回すだけ)状態でした。
色々な意見があり、割りと好意的に捉える向きも多いようです。いわく「戦略的」…しかし、ボクはなかなかそういう風に肯定的に捉えることは出来ませんね。その理由をお話ししましょう。
日本が引き分けを狙っていた理由は2つほど考えられます。ひとつめは準々決勝に向けて移動をしなくて済むこと。1位抜けだった場合、グラスゴーでの試合だったのですが、二位抜けの場合は同じカーディフで試合が出来るのです。1位抜けの方が不利になるという何とも不可解な状態だったわけですが、それを踏まえても、狙っていた2位をしっかりと確保したなでしこ(&佐々木監督)は立派だというのが肯定派が主張する主な論旨です。
2つ目の理由は(1位抜けしたら当たる筈だった)アメリカ&フランスを避けられたということ。アメリカは「世界最強」のチームですし、フランスには大会前の親善試合でなす術もなくコテンパンにやられています(誰が優勝候補だって?)。正直、「金メダル」を狙うのだったら、相手がどこだろうが遅かれ早かれ倒さなければならないので、この2つ目の理由には、ボクはあまり賛同できません。
結局、(イギリスーブラジル戦でイギリスが勝利したことにより)対戦相手はブラジルに決まったわけですが、たとえそれがイギリスだったにせよ(前回のW杯でイングランドに負けているように)なでしこが苦手とするタイプのチームですし、何よりホームの利は大きかった筈です。そして、ブラジル。圧倒的な破壊力を秘めているチームであり、エースのマルタに匹敵するような選手は、なでしこには残念ながら居ません。個人技では明らかに向こうに分があります(昨年のキリンカップではなでしこが勝っているのですが、その時にはマルタは居ませんでした)。フランスとブラジル、どちらを選んだからと言って、両者の間には大して実力差はありません。違いがあるのはなでしこの苦手意識くらいでしょう。つまり、なでしこは苦手な相手とやるのを恐れたのです。ま、確かに、あの親善試合フランス戦を見る限り、逆立ちしたって勝てそうにはありませんでしたけどね。
さて、ここまではメリットを掲げてきました。しかし、判断というものにはメリットと同様、デメリットが付き物です。ボクは今回の判断に関してはデメリットの方が大きいと思うのです。さて、そのデメリットとは何でしょうか。それもまた幾つかあります。
そもそも「戦略」というものは、ひとつの判断だけ取り出して論じてみても仕方がないのであって、その背景にいかなる哲学/論理があるのかを見極めることが大切です。今大会、なでしこは明らかにチーム状態が芳しくありません。良い内容の試合など一度も無かったではないですか。これは取りも直さず監督のチーム作り(=戦略)の失敗を意味しています。アルガルべ杯で4-3-3や(木龍などの)新戦力を試したこともあったのですが、結局、すぐに見切ってしまいましたね。もう少し我慢しても良かったのではないかと思います。結果として、ほとんどオプションが無い状態でなでしこは今大会に突入することになりました。
たしかに期待の若手に怪我人などが出たこともありましたが、なでしこは一年前と全く同じメンバーで戦っています。人間関係も完全に出来上がっていて、新しい発想や選手投入による化学変化も出てきません。もはやチーム全体が動脈硬化に陥ってしまったかのようにすら見えます。W杯の時も苦しんだという意見があるようですが、僕の見方は全然違います。あの時はチームが一丸となっていましたし、はっきりとしたコンセプトのもと、明確な戦い方を貫いていました。選手たちの動き出し/攻守の切り替えはもっと早かったですし、阪口もこんなに判断が遅くはなく、澤はもっと広範囲にスペースを埋めていました。何より、宮間はあんなにパスミスを連発しちゃいませんでしたよ。南アフリカ戦前日の宮間のインタビューは、そういう意味でも気になりました↓
(得意のキックがしっくりいっていないようにも見えるが?)ただ単にボールを蹴っているわけではなく、パスというのは受け手と出し手がいて、ほかに選択肢があって初めて成立するもの。日本の方が女子サッカーを見るようになってからの試合のなかでは質が低いと言われるかもしれませんが、これもあまり気にしていません。http://goo.gl/Zq17S
これ、はっきり言って、解答としては0点です。たしかに、出し手と受け手の問題もありますし、(前回/前々回の記事でも指摘したように)宮間は右サイドで孤立しており、サポートを受けられない状態なので、パスコースの選択肢が少ないというのは事実です。それによって、無理なパスを狙って失敗しているという側面も確かにあるのでしょう。しかし、それ以前にパスの精度自体が低いように感じますし、キックがフィットしているかどうかくらいは見る人が見れば分かります。(これは何も僕だけの意見ではなく、女子代表の初代監督鈴木良平さんなども指摘していることです→http://goo.gl/L01JB)
また、上記のインタビュー後半部は尚のこと意味不明です。これをヤクザな言葉で言い直すなら、「にわかファンは黙っとけ!」ってことになってしまいます(実際、そう言ってるようにしか聞こえません)。これは看過できない発言です。別に道徳的な意味においてではありません。この発言の何が問題かと言うと、それは、質問とは全く無関係に出てきたところです。キック精度の低さを指摘され、「もともと、そんな期待されるほど強くないし、ミスくらい昔からしてるよ。あなたたちが知らないだけ」と答える。これは完全に言い訳です。鈴木良平さんも指摘しているように、宮間のプレーが良くないことは期待値云々とは無関係に客観的な事実です。自身のプレーが良くないことを視聴者のレベルのせいにしてはいけません(断っておきますが、僕は野田さんや大竹さんが現役バリバリの頃から女子サッカーを見続けてきましたし、宮間に関しても、金メダル獲得のためには欠かせない日本のトッププレーヤーだと思っています)。彼女をキャプテンにしたことがそもそも失敗だったんじゃないのかと思うのですが、このインタビューからは、周囲の雑音が非常に気になっているような感じを受けます。
さて、ここまで長々と脇道に逸れましたが、そもそもは2位狙いの判断がどうだったのかというのが本題でした。何が言いたかったのかというと、つまり、佐々木監督は余計な雑音をさらに増やしてしまったのではないかということです。思えば、98年のW杯、フランス代表のジャケ監督はメディアの雑音を完全にシャットアウトして大会に臨みました。結果、様々な批判にさらされながらも優勝を手にしたわけです。
一方、今回のなでしこは大会前から騒がれすぎでしたし、どうも試合に集中できるような状態じゃないように見えます。さらにその上、雑音を増やすようなことをしてどうするのですか。次戦までの間は、何度も同じことを聞かれますよ。「あの判断をどう思いましたか?」…佐々木監督は自分が全部被るようなことを言っていますが、実際問題として雑音を増やしてしまったことは事実です。これがデメリットの一つ目です。
また、たとえ同じ判断になったとしても、最初から「この試合は引き分け狙いで行く」と公言してしまった方が結果的には雑音を抑えられたかも知れません。そうすれば目指す意図が明確になり、選手たちもやり易かった筈ですし、見ている方としてもその線に沿って応援することが出来た筈です。「引き分けを狙って引き分けた」のが最初から理解できていたのであれば、たとえ試合前には雑音が生じたとしても、試合後には消え去っていった筈なのです。実際には、それとは正反対に、2位狙いはしないと明言していた佐々木監督の言行不一致により、「勝ちに行くの?行かないの?」という何ともすっきりしない感情を視聴者や記者たちに与えてしまったのです。結果として、試合後に雑音が生じてしまったわけです。なでしこを長年見続けているライターの方がコラムで
3位通過を絶対に避けつつ、1位通過もよし、2位通過ならなおよし、と位置づけ、スコアをコントロールしながら戦う。http://goo.gl/7VlWv
と、この試合の意図を解説していたのですが、まったく何を言っているんでしょうか。呆れてしまいますね。そういうのは「戦略」とは言いません。それは「行き当たりばったり」と言うのです。
そもそも、佐々木監督は「戦術家」ではありませんし、「戦略家」でもありません。勘に優れた指揮官ではありますがね。それは意外に大事な能力だったりもするのですが、本質的にはモチベータータイプの指揮官でしょう。そこで、もう一つのデメリットに触れることにしましょう。それも精神的な問題、「チームの勢い」という問題です。
かつて、グループステージ最終戦でメキシコと「なあなあ」で引き分けて決勝トーナメントに上がったイタリアが(一回戦こそ突破したものの)韓国なんかに負けてしまったことがありました(02W杯)。これは、サッカーという競技に関して、割りと重要な示唆を含んでいると思います。それは、チームの「勢い」という側面です。休養たっぷりだけど緩い試合をして上がってきたチームが、(たとえば延長戦まで死闘を繰り広げて上がってきたような)疲労困憊しているけれど勢いに乗っているチームにコロッと負けてしまうなんてことは良くあることです。
特に短期の大会ではチームにとって何より「勢い」というものが必要になってきます。なでしこは、前回のW杯では開催国ドイツを(トーナメント初戦で下して)勢いに乗りました。今回、佐々木監督は「身体的な疲労の回復」を優先したわけですが、「精神面やチームの勢い」を優先するのとどちらが良いかとは一概には言えないかも知れません。しかし「らしくない」判断だったとは言えるでしょう。モチベータータイプの指揮官がモチベーションを優先しない選択をしたわけですからね。もちろん、どこぞの国のいつぞや軍人みたいに「精神は肉体を超越する」などと言いたいわけではありません。圧倒的な物量の前には精神論など無意味ですし、休養をすることで精神的にリラックスできるという側面もあるでしょう。しかし、サッカーは11人対11人でやるスポーツですから、(特にチーム力が均衡している場合)チームの勢いというのが意外と重要なファクターに成り得るのです。(スペインが日本の気迫に呑まれて崩壊してしまったようにね)
また「勝ち癖」の問題もあります。なでしこが常勝軍団かどうかはさておき、たとえばモウリーニョのチームやファギーのチーム、あるいはブラジルなどは全ての試合を勝ちに来ます。彼らとて全ての試合をベストオーダーで戦うわけではありませんが、それにも関わらず、そこで出ているメンバーは常に結果を出すことが求められるのです。こうして、「勝者のメンタリティー」が培われていきます。一度、ぬるい試合を経験してしまうと、そこからギアチェンジを図るのは中々むずかしいものです。特に五輪のような短期決戦の場合はなおさらです。
勝ち戦にはそれなりの理由があるものですし、負け戦にもそれなりの理由があります。ボクはここまで、「なでしこが敗退する理由」を述べてきました。しかし、より負ける理由が多い方が負けるというのが古今東西どんな競技に関しても起こってきたことです。なでしこがブラジルに勝つのならば、それは、なでしこが周囲の雑音やらチームの勢いやらとは無関係に、真の実力を身に着け始めたということになるでしょう。そしてそれが、ブラジルがなでしこに負ける理由です。