「燃料費高値買いは背信だ(東京新聞)」について | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)


さて、問題です。

自分にとって都合の悪い数字を隠しているのは誰でしょう?


以下引用↓


「電気値上げ-燃料費高値買いは背信だ」

 火力発電の主力燃料、液化天然ガス(LNG)を世界一の高値で買えば電気料金も自(おの)ずと高くなる。唯々諾々と産ガス国の言い値に従い、消費者にツケを回す電力業界の構造は限りなく背信に映る。

 東京電力は企業向け料金の値上げ発表に続き、家庭向けも国に値上げ申請する。原発が失った発電能力を火力で補っているため、燃料費が年八千億円以上増え赤字経営に陥るからだという。

 日本が保有する原発は計五十四基。福島以外の原発も周辺自治体の反対などで定期検査終了後も再稼働できず、今や動いているのはわずか二基だ。

 その結果、日本の総発電量に占める原発の割合は著しく低下し、火力発電は49%から72%へと膨らんだ。東電以外も遅かれ早かれ料金を引き上げるのだろうが、値上げ理由をうのみにはできない。

 火力発電にはLNGや石炭、石油が使われ、LNGが四分の三を占めるが、そのLNG調達には不可解な点があまりに多い。輸入LNGの六割は電力向けで、昨年十二月の購入価格は百万Btu(英国熱量単位)当たり約十六ドル。ところが、欧州は約十ドルで輸入し、米国は自国の地中に堆積した頁岩(けつがん)層からのシェールガス生産が始まり、三ドル前後と極めて安い。

 ドイツはパイプラインで輸入するロシア産と、LNGで輸入するカタール産などを競わせて値引きを迫れるが、日本には産ガス国との間を結ぶパイプラインがない。

 電力業界は高値の理由をこう説明しているが、同じ条件下の韓国は日本企業が投資したロシアのサハリン2から日本の半値以下で輸入し、三年後にはガス輸出国に転じる米国とも安値で契約済みだ。なぜ電力業界は、のほほんと大手を振っていられるのか。主たる理由は原燃料費調整制度の存在だ。

 産ガス国が値上げしても、為替変動で輸入価格が上昇しても、上がった分を電気料金に自動的に上乗せできる制度なので、過保護を見抜かれた電力業界は産ガス国の言い値で押し切られてしまう。

 産業界からの批判を避けるため、大口企業と割引契約を結んでいるともいわれている。中小・零細企業や家庭など、力の弱い需要家ばかりにツケを回し、声の大きい企業は割引で黙らせる。

 こんなあしき構造を許しては原燃料費調整制度を続ける政府も背信のそしりを免れない。円高を活用した海外ガス田の権益獲得など燃料調達も視野に入れた料金制度のゼロからの見直しを求める。
【東京新聞 社説】2012年2月25日


引用終わり


 ぼくが調べたところ、↑の社説に書かれている数字で、これは「嘘」だと断言できるような数字はありません。しかしながら、当然書かれているべき筈の数字が書かれていません。それが何かを指摘する前に、まず前提をおさえておきましょう。

 ↑の社説を振り返ってみると、日本が16ドル、欧州が10ドル、米国が3ドル前後と記載されています。しかしながら、原産国である米国やパイプラインが利用できる欧州と価格面で比較できないのは当たり前のことです。これは↑の社説を書いた論説委員も分かっており、だからこそ「同じ条件下の韓国」との比較が出て来ます。
 
 天然ガスの輸入は、パイプラインによるものと液化してタンカーで輸送するLNG(液化天然ガス)に大別できますが、四方を海に囲まれた日本と、大陸からのパイプラインを敷設するには北朝鮮を経由しなければならない韓国では、ほぼ全てをLNGに依存しています*1。原産国との距離という点でも日韓両国はさほど大きな違いがないので、この両国の輸入価格を比較するのは妥当だと言えるでしょう。

 さて、ここで問題です。日本が16ドル、欧州が10ドル、米国が3ドル。では、韓国は?

 ↑の社説では韓国が「サハリン2から半値以下で」と書いてありますから、漠然と「8ドル以下じゃないか?」と考えてしまう可能性があるかも知れません。

 答え・・・2011年12月、韓国のLNG平均購入価格は「$14.22」です*2。

 *2の表を見ると、2011年12月、韓国はロシアからは6.23ドルでLNGを仕入れている一方、オマーンからは18.95ドルで買っています。燃料費全体の価格を決定しているのは、(当然)すべてのLNG購入価格を合わせた価格ですから、「どこから幾らで買ったか」ということのうち、ひとつだけを抽出して書いても(全体の購入価格を論じる上では)無意味です。

 全体の購入価格を論じるならば、全体で幾らだったか、そしてそれを平均すると幾らだったかということが重要になります。これは至極あたりまえのことであって、だからこそ、↑の社説でも日本の16ドルや欧州の10ドルってのは(百万Btu 当たりの)平均購入価格を書いているわけです。

 ところが、↑の社説には、比較対象である筈の韓国の平均購入価格が書かれていません。それは誰でも調べることが出来る数字です。サハリン2からの購入価格を知っていて、国全体の平均購入価格を知らないなんてことはありえません。知っていて出さない。これは紛れもなく印象操作です。

 ・・・まあ、この時点で反論終わりでも良いんですが(* ̄艸 ̄)

 一方、「それにしても約2ドルの差があるじゃないか」という再反論がありえるかも知れません。実際、2011年平均でも日本は15.19ドル、韓国は13.18ドルと約2ドルの差が生じています*3。そもそも、東アジア全体のLNG価格が急騰しているのですが、この原因は言うまでもありません。「原子力発電所の稼働停止に伴う電力不足を補うために日本が輸入拡大に動いている*4」からです(加えてイエメン情勢)。

 現状、日本は高いとか安いとか言っていられる状態ではないですから、とにかく安かろうが高かろうが、かき集められるだけかき集めているわけです。当然、平均購入価格も上昇していきます。しかし、構造的に日本が韓国よりLNGを高く買ってきたという事実はありません。以下に過去10年の平均購入価格を掲載します。

日本韓国
20014.644.95
20024.324.41
20034.825.03
20045.235.74
20056.046.96
20067.188.75
20077.799.90
200812.6414.15
20099.4210.5
201011.0310.17
LNG import prices into Japan and Korea USD/Mbtu
参照:IEA, ENERGY PRICES & TAXES, 2nd Quarter 2011 p.23

 むしろ、恒常的に日本は韓国よりも安くLNGを買ってきたのです。こんな評価もあったくらいです↓

Since paying $25/MMBtu for a spot cargo from Qalhat LNG in winter 2005/2006, Kogas has had a reputation as the highest paying of all the Far East spot buyers in winter. 
2005/2006冬季、QalhatのLNGを25ドルで買ったため、KOGAS(韓国ガス公社)は冬季に極東でもっとも高く買う買い手という世評を受けた。*5

 平均購入価格は2010年に逆転していますが、それは(シェールガスの登場による情勢の変化と)韓国の努力の賜物でしょう。もちろん、その点は見習わなければならないのですが、大事なのは日韓両国がしのぎを削ってきたということです。「のほほん」とか「ツケを回し」「黙らせる」「背信」など↑の社説で述べられているキーワードが当てはまる事態だとはボクにはとても思えません。

 自分の説にとって都合の悪い数字を隠し、そうした一連のキーワードで、政府や電力会社がいかにも読者(国民)を欺いているかのような「雰囲気」を作り上げる。さて、この場合、読者を欺いているのは誰でしょう?

 ちなみに、朝日新聞も3/13に同様の社説*6を載せ、それに対しては東京電力が反論しています*7。また、週刊ポストも5/21に似たような趣旨の記事*8を載せていますが、それについては次回反論します。シェールガス関連が中心的な話題になると思います。

というわけで・・・つづく



*1.天然ガス・LNGの輸出入→http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4120.html


*3.天然ガス輸入価格の推移→http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4124.html



*6.朝日新聞HP内のページは期限切れですが「東電値上げ 燃料費下げる努力は?」で検索をかけると全文を見つけることが出来ます。

*7.3月13日付朝日新聞朝刊社説「東電値上げ 燃料費下げる努力は?」について→http://www.tepco.co.jp/cc/kanren/12031301-j.html

*8.東電値上げ 丼勘定でバカ高いLNG購入のためと専門家指摘→http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120521-00000015-pseven-soci