"After dark vapours have oppressed our plains"
John Keats
After dark vapours have oppressed our plains
For a long dreary season, comes a day
Born of the gentle South, and clears away
From the sick heavens all unseemly stains.
The anxious month, relieving from its pains,
Takes as a long-lost right the feel of May,
The eyelids with the passing coolness play,
Like rose leaves with the drip of summer rains.
And calmest thoughts come round us - as of leaves
Budding - fruit ripening in stillness - autumn suns
Smiling at eve upon the quiet sheaves -
Sweet Sappho's cheek - a sleeping infant's breath -
The gradual sand that through an hour-glass runs --
A woodland rivulet - a Poet's death.
「暗い雲霧が…」宮崎雄行訳
暗い雲霧が 長い侘しい季節のあいだ
野に重く垂れ続けた後に、穏やかな南方生れの
一日が来て、病んでいた空から
醜い汚点を悉く消し すがしくする。
不安に満ちた月が 苦悩から蘇り
当然の事として、長らく喪われていた五月の気配をおび、
瞼は渡りゆく涼気にたわむれる
夏の雨の滴る雫に、薔薇の花びらがするように。
そして 上なく寂かな思いが吾らを廻るー
例えば
芽吹いてゆく葉、しんしんと熟れる果実一
夕まぐれ
静かな刈穂の束に笑みかける秋の日ざし、
麗しいサッフォーの頬ー眠る幼児の
息づかいー
ゆるやかに時計の管を流れ
落ちる砂一
森深くゆくせせらぎ-詩人の死にかかわるような。
手許に『対訳 キーツ詩集』(岩波文庫2005)というものがありまして、
そこに収録されている詩のひとつが↑に掲載したものです。
さて、この訳、どう思われるでしょうか…
ぼくは、正直、これ、センス・ゼロだと思うのです。
言葉のチョイスが重すぎるのは言うまでもないのですが、
なんだかリズムも良くない…というかリズムがない…(;一_一)
ちなみに、おなじみのAmazonさんのレビューでも酷評されてます。
Wikipediaによれば、訳者の宮崎さんという方(故人)は、
英文学者であり、また詩人でもあるらしいのですが、
「本当かい?」って少し疑いたくなってしまいます。
※まあ、詩人ってもピンキリあるからね。
なんか、言葉の解釈も少し納得いかないんですよね。
たとえば、"relieving from its pains"は「苦悩から蘇り」と訳されていて、
その下にある註では、OED(Oxford English Dictionary)を引きながら、
"relieving from"は”to lift or rise up again”という意味だとしているのですが、
その用法…なんと驚くべきことに、1533年のもの…(;一_一)
キーツから300年も前の用法を持ってくるってのは、どう考えても変です。
という訳で自分でOEDを調べてみたところ、
"relieving from"の別の用法が載っていました↓
”To stand out in relief. ”1812 Examiner 25 May 328/1 The brilliant lights relieving from a large proportion of half tints.
つまり「~から際立つ」「浮き彫りになる」って意味で使われているんですな。
ここで引かれている1812年の例はExaminerという雑誌のものなのですが、
このExaminerという雑誌は、キーツの友人で擁護者でもあった
リー・ハント(Leigh hunt 1784-1859)が創刊したものです。
はっきり言って、こっちの方が確実に正しい解釈だと思いますね。
ここで、初めに載せたキーツの詩を振り返って見るならば、
これは、長く平野を覆っていた暗い霧が、ある日に晴れるって詩なので、
「蘇る」というイメージよりは、霧の上から城の尖塔が顔を出すように、
霧から「抜け出す」というイメージを受け取った方が、遥かに良いでしょう。
要は、anxiousとreliefが対になっているんですな。
anxious(不安)な状態からrelief(解放)される(=relieving)っていう、
まあ、ある種の詩的効果がこの一行からは読み取れるわけです。
それを「蘇る」って言葉を使ったんじゃまったく噛み合わない…
ここで「蘇る」という言葉を使うと最後の一行も違って響きますし、
なんだか、瞬間的に「苦悩が蘇る」みたいに読めてしまいますしね。
少なくとも、この詩において、この一行においては、
「苦悩」と「蘇る」という言葉を隣り合わせで使うべきじゃないのです。
ここはどうしても、解放を意味する言葉を使わなければなりません。
さて、ここまで言ったのだから、天に唾する覚悟で…訳しちゃう(* ̄艸 ̄)
まあね…ぼくは英文学専攻でもなく、詩論を学んだこともないので、
(美学事典を読んでいると、美学と詩学は深く繋がっていると分かるのですが)
実際、どうなもんかなって気もするのですが、まあ、良いっか。
韻とかリズムとかは難しいけれど、取り敢えずイメージを大切に…
※まだx2修正の余地はありそう…もうちょっと何とかしたいな(^_^;)>
"After dark vapours have oppressed our plains"
「暗い霧が、我らの平野に重くのしかかったあとで」
After dark vapours have oppressed our plains
我らの平野に重くのしかかっていた暗い霧
For a long dreary season, comes a day
長く陰惨な季節が過ぎたのち、とある日が訪れる
Born of the gentle South, and clears away
それは穏やかな南から来たりて、そして一掃するのだ
From the sick heavens all unseemly stains.
病に満ちた天から、すべての見苦しい染みを
The anxious month, relieving from its pains,
不安に充ちたその月は、病の苦しみから抜け出し
Takes as a long-lost right the feel of May,
長らく失われていた5月の感覚を取り戻す
The eyelids with the passing coolness play,
そして、まぶたは過ぎ去る冷気と戯れるのだ
Like rose leaves with the drip of summer rains.
夏の雨滴に戯れる薔薇の花びら―のように
And calmest thoughts come round us - as of leaves
そして、この上なく穏やかな思索が我らを巡る
Budding - fruit ripening in stillness - autumn suns
芽を吹く葉のように、静かに熟す果実のように
Smiling at eve upon the quiet sheaves -
口きかぬ藁束の上、微笑みかける秋の夕日
Sweet Sappho's cheek - a sleeping infant's breath -
麗しのサッフォーの頬、眠る幼子の吐息―
The gradual sand that through an hour-glass runs --
砂時計のなか、ゆるやかに駆ける砂―
A woodland rivulet - a Poet's death.
森のせせらぎ―ある詩人の死-のように。