2005年に書いたものです<(__)>
『駅』
そこには何もない。そこには何もないと知っていた。
今日は霧が深い。
静かで音のない世界。
霧の中わずかに感じられる日の温もりが心地よい。
閑散とした駅、見えるのは疎らな木々と線路に生える草。
ザッザッ
霧の中から誰か来る
「良かった、人がいた」
男がひとり
「いや~、霧が濃くて参りましたよ」
「ここ駅ですかね?」
<そうみたいですね>
「電車来ますかね?」
<さあ、どうでしょう・・・>
「どうでしょうって貴方、ここで待っているんでしょう?」
<ええ>
「駅員さんはいないんですかね」
そう言って彼はその辺を歩き回る。
<いないみたいですね>
「本当に電車来ますかね?」
<何処へ行くのですか?>
「何処にと、いうわけじゃなくて」
言いながら線路に降りる
「気侭な一人旅なんですがね」
「この辺に駅が出来たって聞いたんですけど」
「あれ?」
「この線路、使われていないんではないですか?」
「錆びていますよ」
<本当ですか?>
「廃線なのですかね?此処ではなかったのかな?」
「この先、見てきますね」
彼は再び霧の中。
葉は川を下り、大海に出でて二度と戻ることは無い。
あたりは静寂の中・・・
薄暗い光に包まれて、時はうつろう・・・
こうしていると自分すらも幻のようだね・・・
『あー、あった』
女がひとり
『貴方も此処を見に来たのですか?』
<・・・此処?>
『此処ね、昔、映画のロケに使われたんですよ』
<そうなんですか>
知らなかった。
『いい雰囲気の場所ですね』
<そうですね・・・>
彼女は物珍しげにその辺を歩き回る。
四季はうつろいやすく空の色も思い出せない。
・・・・・・
彼が霧の中から戻ってくる
「やはり廃線でした、この先には何もありません。」
彼は実行者
「その人は?」
『ここに電車は来ませんよ、10年前に廃線になっているので。』
「やはり、そうでしたか。」
日のあたる場所を好む
「貴方はなんで此処に来たんですか?」
『此処は映画のロケに使われた場所なんです。』
彼女は企画者
「そうだったんですか。」
「でも参りました、電車が来ないとは。」
『今の駅ならば、もう少しあちらですよ』
「そうなんですか?」
「では場所を間違えたのか。」
『この霧では仕方がないですよね。』
夢を夢とも思わない
「霧が晴れるまで待ってから行ったほうがいいかな?」
『私、駅の場所分かるので良かったら案内しましょうか?』
「そうして貰えると助かります。」
『では一緒に行きましょう。』
「貴方もどうですか?」
「貴方も電車を待っているのでしたよね?」
僕・・・?
僕は傍観者。
<いや・・・僕はいいです>
人の世に生まれ来し者
『ここに座って何を見ているのですか?』
<何を・・・?>
星。
<・・・>
空、この眼に映らない空。
<ん~・・・>
人、数え切れないほどの人。
<なんとなく・・・>
そして星、そして未来。
<ですかね>
「なんとなくか、そういわれれば此処いい雰囲気ですね」
『そうですよね』
少し羨ましくもある
「そろそろ行きましょうか?」
『では私たちは先に行きます。』
哀しくもある
<ええ・・・>
『さよなら』
<・・・さようなら>
過去と出会い、未来と交差することもある。
今日は楽しかった、今はそれでいい・・・
ここには何もないと知っているけれど。
彼らの声が霧の中から聞こえた。
「本当に来ないんですか?」
『一緒に行きましょう。』
霧が晴れて、雲が遠く遠く去っていく。
再び見ることもない。