
今日は何の話をしようか・・・そうだな、少し昔の話をしようか。あれは、星が今のようにぼんやりとは見えていなかった頃、僕は、夜空の下で窓辺に腰掛けてラジオを聴くのが好きだった。窓を開けて入ってくる風は冷たかったけど、木々がざわめく音は心地が良くて、いつもそうしてた。
遠い遠いところから届く電波。僕は、なぜか連なる鉄塔をイメージしてた。実際には空から飛んでくる電波だったけど、僕には、ずっとずっと連なる鉄塔の方がイメージし易かった。鉄塔を伝わってくる音。まるで隣で話してるかのようなスタジオの声を、小さなラジオに耳を寄せて聴いていた。時々流れるステッカーは、木々の上まで響くような気がして大好きだった。
小さい小さい音量で聴いたラジオ。部屋中の明かりを消して聴いた深夜のラジオ。他に気をとられることもなくて、そこにはただ音とイメージだけの世界があった。コマーシャルの時は、廊下に寄りかかって、部屋の片隅で月明かりに照らされるラジオを眺めてた。あれは遠くの世界。もう僕のものではなくなってしまった世界。ラジオのスイッチを切ると、静かな小鳥のさえずりや、遠くで道路を擦るタイヤの音、そんな音が、夜が明ける前の空に、やけに大きく響いてた。今日も夜の海へと漕ぎ出そうか。星がぼんやりと見えているうちに。