大昔の話しになるが、泉鏡花の「高野聖」を読んで、こんな分野の小説もあるのだと知り、その後しばらくして夢枕獏の本に出合うことになった。
夢枕獏といえば陰陽師安部清明だが、10数年前に全く分野の異なる山岳小説「神々の山嶺」を書いて、確か柴田練三郎賞だったと記憶する。マロリーは本当に山頂に立ったのか?という内容の、大変面白い読み物だった(最近文庫化された)。
その夢枕獏が、またまたコロリと分野の違う「大江戸釣客伝」を発表、2011年に泉鏡花文学賞、そしてつい最近、これで吉川英治文学賞にも輝いた。
図書館で予約、10日間待ってやっと届き、22日(日)は終日の雨だったから、私も終日これを読んだ。

将軍徳川綱吉が次々に発する「生類憐みの令」の下で、釣りに人生を掛ける人々の様子に、松尾芭蕉やその弟子其角、水戸光圀に紀伊国屋文左衛門、赤穂浪人の討ち入りまでが絡んでいて、一気に読み終えた。
『人とはどのような者でも、その裡に様々なる貌をもっておる』が、『釣りをいたしますおりにあらわれる貌こそが、その人物の本当の貌に一番近いのでは』
とか
『人は淋しい。人は愚かだ。その淋しさや愚かさ哀しさや、愚かさの深さに応じて、人は釣にゆくのであろう。人は弱い。その弱い人間がすがる杖、それが釣りなのではないか』
さてこの「釣り」を、何かに変えて自分を見つめると、かなり面白い。