先生の異動。

婦人科、担当の木田先生。


去年、強い腹痛が続き、数件の病院をたらい回しにされ、ようやく石橋病院でちゃんと診てもらえた。

始めての診察の時から、とても丁寧で優しかった。


手術はうまくいかなかったけれど、その後もずっと気にかけてフォローしてくれた。

婦人科から外科へ私の受け持ちが変わってからも、ほとんど毎日病室へ様子を見に来てくれた。


退院後も電話で状況を確認してくれた。

『ごはん食べてますか?』

『ぼちぼちで大丈夫ですよ』

『無理しないでくださいね』


心配性の私が気にしそうなことを、いつも先回りして教えてくれる。


こっちから電話をかけても、看護師が『先生は手術中です』と言って取り次いでくれなかった。

『先生が心配なことがあったら、かけてきて良いと仰いました』と言うと、すぐに繋いでくれた。

手術中というのは嘘だったようだ。


先生『なんですぐに取り次がないんでしょうね。

僕は大丈夫なので、何かあったらすぐに電話してきてくださいね。

気にされないでくださいね』

こんなこともあった。

私の動揺を察して、いつも安心させてくれた。

懐かしい。


最後の診察日は残念だった。

忙しかったようで、イライラ、ピリピリしていた。

いつものような笑顔もなく、淡々と最後の診察は終わった。


先生『田中先生に引き継いでおきます。

僕よりベテランの、女性の先生なので心配ないと思います。

外科の田部先生にも、よろしくお伝えください』


田部先生には先生が自分で挨拶した方が良いのでは?と思ったが、飲み込んだ。

今までのお礼を伝えて、診察室を出た。


最後くらい、いつもの優しい先生でいてほしかったな。

悲しい。

涙が出てきた。


先生にあまり責任を感じさせないように、良い患者でいようと努めてきた。

先生に文句の一つでも言えたら楽かもしれないと思ったこともあった。

でも先生が悪いわけではないと自分に言い聞かせ、絶対に取り乱さないように気を付けていた。

私の葛藤なんて、知ったこっちゃないだろう。


異動だから仕方がない。

わかっていても複雑だ。


外科の診察。

私『木田先生が異動されるそうです。

田部先生によろしくお伝えください、とのことです』

先生『え?

自分で言いに来ればいいのに』

ですよね。私もそう思います。とは言えなかった。


先生『若い先生だから異動は仕方がないけど、婦人科のフォローで僕もがんばったんだけどな。

藤井さんも大変だったのにね』

2人で苦笑い。


何はともあれ、慕っていた先生との突然の別れは、本当に悲しかった。


いつも自信がなさそうだけど、とても心優しい先生。

生きていることが辛くなった時も、先生のおかげで落ち着いた。

感謝してもしきれないくらい救われてきた。


『辛い生活を強いてしまってすみません』

悲しそうな顔でいつもそう言っていた先生の顔が浮かぶ。


【そんなことないですよ。

私は大丈夫です。

本当にありがとうございました】