まだ朝だったと思う。

意識は朦朧としていた。

婦人科の木田先生が来た。

『もうすぐ管が抜けますからね』

気管挿管状態で、声は出せない。


しばらくして、知らない先生と看護師が来た。

そして、抜管。

すぐに、知らない先生はいなくなった。

『ありがとうございました』

声が出た。


木田先生がベッドの横に来てくれて、しばらく話をした。

この辺りから、意識がはっきりしてきた。

先生がいてくれて、本当によかった。


先生にたくさんの質問を投げかけてしまった。

きっと、困らせただろう。

『本当は、今日の午後から、田部先生が説明される予定になっているんです。

でも、簡単に話しますね』

優しい木田先生は、混乱している私を見ていられなかったのだろう。

『話したことは、僕から田部先生へ伝えておきますので、心配しないでください』


ストーマ閉鎖術をするために、全身麻酔を導入。

すぐにアナフィラキシーショックを起こした。

気道浮腫、でも気管挿管していたので、助かったようだ。

抜管までの72時間、苦しまないように、眠くなる薬を使用されていた。


『筆談したこと、覚えていますか?

ご主人が面会に来られたこと、覚えていますか?』


テーブルには、落書きしたような紙が、何枚もあった。

全部自分で書いていた。

字が汚すぎて驚いた。


夫と会ったこと。

木田先生と会ったこと。


夢かと思ったら、現実だった。


『手術を受けることを怖がっていましたよね。

したくないという気持ちも、影響したのかもしれませんね。

では、またあとで来ますね』


木田先生が状況を話してくれて、看護師も喜んでいた。

看護師は口止めされていたそうだ。

困惑している私を見ていて、辛かったと言っていた。

何も知らされないまま、説明の時間を待つのは酷だと、感じていたそうだ。


『今日、ICUは藤井さん1人なので、テレビは音を出しても大丈夫ですよ』

と、看護師がテレビをつけてくれた。

電車の中で、乗客が切りつけられた事件が、流れていた。

前日のハロウィンの日に起きた事件。

手術日は、10月29日のはずだ。

本当に3日経っていた。


テーブルの上に、プロペトと書かれた小さい容器があった。

『唇が乾燥して痛そうだったから、時々塗ってあげてたんですよ』

そんなことしてくれていたんだ。

優しい、うれしい。


1人になって、改めて、夫や先生と筆談した紙を見た。

ほとんど思い出せない。

迷惑をかけなかっただろうか。

心配になった。