深夜のICU。
すっかり静かになり、機械音だけが響いていた。
寝ようとするが、寝つけない。
寝息を立てる、2人の患者が羨ましかった。
電子レンジが稼働する音が聞こえてきた。
部屋中に、一気に匂いが充満した。
ストーマを造って以来、匂いに過敏になっていた。
排泄物が漏れていないか。
自分が匂いを発していないか。
不安に襲われた。
ストーマを確認しても漏れている様子はなかった。
何か食べ物の匂い。
コンビニ弁当のような強い匂いだった。
長期間絶食だった為、その匂いで気持ちが悪くなってきた。
ICUの中で、私以外の患者は眠っているようなので、勇気を出してナースコールを押した。
看護師が慌ててカーテンを開け、入って来た。
何か食べていたことが、すぐにわかった。
もう寝ていると思っていたのか。
起きていたとしても関係ないのか。
『何の匂いですか?
私の匂いかと思って、心配になっちゃって』
『気にしないでください』
質問には答えず、すぐに去って行った。
イライラさせてしまっただろう。
嫌味の一つでも言いたかったが、威圧感に怯んでしまった。
後輩看護師ちゃんが休憩に行っており、先輩だけがICUにいた。
会社員の私にとって、食事は休憩時間に摂るのが当たり前だ。
私の当たり前は、病院内の常識ではないかもしれないと、無理矢理自分に言い聞かせた。
我慢するという選択以外、他にない。
患者3人と看護師1人。
何が起きても、ICUの外の人に伝える術はない。
命を預けている以上、従うしかない。
ナースコールを押すのも、すごくすごく気を遣う。
気分害さないように、言葉を選んで話しかける。
怒らせると何をされるか、怖くて怖くて堪らなかった。
あと少しの我慢。
交代の時間まで、じっと待った。
しばらくして、後輩ちゃんが休憩から戻った。
そして、先輩は休憩へ行った。
後輩ちゃんが様子を見に来てくれた。
『さっきの看護師さん、怖かったです』
『私もすごく怖いです』
と、言っていた。
全部話そうと思っていたが、生真面目でおとなしそうな後輩ちゃんに、何も言うことはできなかった。
だから飲み込んだ。
その後も、後輩ちゃんは、テキパキと動き回っていた。
おじいちゃんの排泄物の世話や、私の点滴交換、使用した簡易トイレの片付け等、外が明るくなっても、ずっと忙しそうだった。
全く働かない先輩との大きな違いに驚いた。
病院がそれを良しとしているのだから、仕方ない。
患者は看護師を選ぶことはできない。
僅か数時間の出来事だったが、忘れられない恐怖体験になった。
病院は一番安全な場所だと思っていたので、とても残念だった。