最初の手術を執刀した先生から電話がきた。


まだ覚えていてくれたんだ。

とっくに忘れられていると思っていた。


入院中は毎日のように会っていた。


塞ぎ込んでいた私が、心を開いた数少ない人だった。


体調のことだけでなく、世間話もした。

入院中の愚痴も聞いてもらった。


動けない時は、冷蔵庫の飲み物も取ってくれた。

カーテンの開閉。

ベッドの下に落としたものを拾ってくれたり。


看護師が怖くて何も頼めなかったけど、先生には言えた。


コロナ禍で面会できない夫にも、小まめに連絡を取ってくれていた。


不安な夫は随分弱音を聞いてもらったらしい。


手術はうまくいかなかったけど、私も夫も先生のことを少しも責める気にはなれなかった。


すごく生真面目で優しい先生。

いつも真摯に向き合ってくれていた。


術後の病院の対応については、もちろん不信感や不満はあった。

でも、不思議とその気持ちは先生へは向かなかった。


『こんなによくしてくれる先生いないよね。

患者さんみんなにこんな風に接したら身が持たないよね。

お医者さんってすごいよね』

いつも夫が感心していた。


久しぶりの電話はうれしかった。

まだ気にかけてもらえていると思えたから。


『怖くて食事が摂れなくて、どんどん痩せていっちゃいましたよね。

最近は食べられていますか?』


しばらく、近況を話した。

楽しくて饒舌になった。


後遺症やメンタルの不調から抜け出せないことは、言わなかった。


『ご主人はお元気ですか?

よろしくお伝えくださいね。


ゆっくり、少しずつでいいと思うんですよね』


自信なさそうな弱々しい笑顔が浮かんだ。


『ありがとうございました。

先生も無理されず、元気でいてくださいね』


久しぶりの電話に励まされた。


少しずつ前に進もう。


もし次の電話があったら、本当の『元気です』が言えるように。


先生は私たち夫婦の推しだ。