同僚の山川さん、最後の出社日。


引き継ぎと片付けを済ませて、定時。

周りが帰宅し始めた。


お局女帝とその取り巻きが会社を出ようとしていた。

山川さんが追いかけて声をかけた。


山川さん『今日で退職することになりました。

お世話になりました。

ありがとうございました』

お局『へー、おつかれさまー』

取り巻き①『はいはーい、おつかれっしたー』

取り巻き②『そうなんですねー、へー』


笑顔もなく、さっさと去って行った。


私はその光景を眺めていただけなのに、体中から悲しみや苦しみが込み上げてきた。

震えと動悸が始まった。


山川さんが、勇気を出して挨拶に行ったのに、どうして労いの言葉一つかけることができないのだろう。

長く働いていたのに。

涙を堪えた。


山川さんが私の席にきた。

山川さん『緊張したけど、最後だから、挨拶はしとこうと思ってね。

私のせいで嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさいね』

私『いえいえ、残りのデスクの片付けは私に任せてください。

もう出ましょう』

強張って表情の山川さんをすぐにでも会社の外へ連れ出したいと思った。


2人で食事へ行った。

小さな居酒屋。


山川さんも最初は言葉少なめで悲しそうだった。

『転職して同じような待遇の仕事に就けるか不安だな。

でもこれ以上、攻撃されると身が持たないよ』


世間的にはホワイト企業なので福利厚生も良い。

私の退職にブレーキをかける理由も同じだ。

でも心身がボロボロになったら、元も子もない。


お酒が進み、昔話や家族のことを楽しそうに話してくれた。

だんだん笑顔になってきた。


後半はお店のご主人や奥様も一緒にテーブルを囲んでいた。


最後に、用意した贈り物を渡した。

私『本当におつかれさまでした。

丁寧に引き継ぎをしてくださって、ありがとうございました』

山川さん『もっと一緒に仕事をしていたかったけど。

ごめんね、無理させちゃって。

やっと解放される』


数日前まで、本当は辞めたくないと言っていた。

でも最後は清々しい様子でほっとした。


次は私の番だ。

勇気を出して仕事を辞めることより、仕事を続ける我慢の方が何倍も大変なことかもしれない。


苦しみから解放される山川さんが羨ましい。



朝起きたらハイビスカスが一輪咲いていた。

私もウジウジしていられない。