私『私、退院できそうですか?』
先生『希望の日はありますか?
その日を目指して頑張りましょう』
退院の日が決まった。
帰宅できる喜びと、何か起きたらどうしようという、不安と葛藤。
体が回復してきている実感はあった。
でも、心は追いついていない。
本当の音なのか、私にしか聞こえていない音なのか。
遠くから聞こえてくる。
足音、機械音、スマホのバイブレーション、お祭りのような騒音、話し声。
昼でも夜でも、お構いなしに襲ってくる。
見えない何かと戦っている。
術後の痛みには波がある。
痛みが強くなると、一番辛かったあの時に引き戻される。
術後の合併症が起き、気を失うような激痛の中、先生や看護師に痛みを訴え続けた、あの3日間。
『術後だから仕方ないです』
『落ち着くまで我慢するしかないです』
『もっと大変な手術をした人はたくさんいますから』
『みなさん痛いんですよ』
『みなさん我慢されていますよ』
『痛いのは藤井さんだけじゃないです』
『ちゃんと食べてください』
『リハビリなので食器は自分で下げてください』
『他の方はもっと頑張ってますよ』
命が危ないと気が付いてもらえるまでの3日間。
電気が走るような痛みの記憶が、鮮明によみがえる。
耳を塞いでも聞こえてくる。
わー、と大きな声を出したくなる。
ベッドの手すりを掴み、深呼吸をする。
辛くて怖い時、誰かに手を握ってほしかった。
そばにいてほしかった。
コロナで、それは叶わなかった。
心が追いつかなかくなったのは、コロナのせいだ。
何かのせいにしないと壊れていく。
退院して、普通の日常生活を送ることができるだろうか。
心の傷が癒えないまま、病院は私を野放しにするのだろうか。
家族に会いたい。
でもまだ無理だ。
迷惑をかけてしまう。
退院の日が決まり、心は不安定だ。