ほとんど眠れず、朝方にシャワーを浴びた。
時間を持て余し、窓辺でぼんやりとした。
朝焼けが、きれいだった。
6時半に看護師が来て、検温・血圧測定。
手の甲に、点滴の針を刺すための、痛み止めシールを貼った。
仕事を休んで自宅待機をしている夫に電話をかけた。
私『もうすぐだよ。
今度こそ、何も起きないといいね。
そろそろ行ってくるよ』
夫『今度は大丈夫だよね。
今すぐ病院に来てくださいって、もう言われたくないね』
と、笑っていた。
遺書は簡単なものを用意した。
家族への感謝、そして、先生へ『責任を感じないでください』と書いた。
病室の貴重品入れに、スマホ・財布・時計と一緒に並べた。
ここなら必ず見つけてもらえるだろう。
血栓予防の弾性ストッキングを履き、ショーツとガウンだけを身につけた。
主治医の田部先生と研修医の山中先生が来た。
『厳重に行いますので、安心してください。
大丈夫ですよ。
起きたら、ストーマはなくなっていますからね』
8時頃、看護師が迎えに来て、手術室に向かった。
『大丈夫よ』
『頑張って』
と、顔馴染みの看護師から、廊下で声をかけられた。
付き添いの看護師と歩いて手術室へ向かった。
あまり話したことがない看護師だった。
エレベーターの中で2人、とても緊張した。
看護師『藤井さん、色々なことが起きて大変でしたね。
今度は大丈夫です!
明日ICUから戻って来るのを、みんなで待ってます』
私『ありがとうございます。
何もできないけど、頑張ります』
話しかけてくれて、少し緊張がほぐれた。
手術室の入口で看護師の引継ぎと、本人確認。
『1つ1つ慎重に確認しながら進めますので、通常より、手術室にいる時間が長くなります』
説明が終わり、キャップをかぶって、中に入った。
銀色の大きなドア。
冷たい空気。
今年4回目の手術室。
何度来ても慣れない。
ベッドに横になった。
だんだん動悸が強くなる。
もう逃げられない。
まな板の鯉だ。
覚悟を決めるしかない。
深呼吸を繰り返す。
いつものように、ルートが取れない。
何度も針を刺したり、抜いたり。
時間がかかったが、なんとか確保できたようだ。
『眠たくなるお薬が入ります』
口からマスクを押し当てられた。
息苦しい。
頭の中に、たくさんの人の顔が浮かんだ。
【ありがとう。死んだらごめんね】
いよいよ手術が始まる。
眠ろう。
大丈夫、大丈夫、と自己暗示をかける。
目を覚ましたら、きっと無事に終わっているはずだ。