バランス(2) | 読書セラピー(幸せのページ)

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木に吹いた風が緑色になるように
花に吹いた風が芳香を運ぶように
風に言葉を託して届けます。

―『悲観するな、増長するな』は
 バランスをとるってことですか。

はい。
まさに『悲観するな』と
いう標語が
薬局マツモトキヨシを
救ったことがあります。

清が県議3期目の頃
お店の従業員に
お金を使いこまれ
気づいたときには
膨大な借金が発覚。

清も県議会が忙しく
小売りはほとんど
奥さんに任せているような
状態で。

そうこうするうち
県議会の歳費にまで
差し押さえが
入りかねないほど
切羽詰まった状態に
なったのです。

―それは、大変・・・。

取り立て人は
清の自宅まで押しかけ
家具に差し押さえの紙が
ペタペタ張られます。

ついに清の背広まで
差し押さえられそうに。

―そんな・・・
 背広がなかったら
 議会に着て行けないですよね。

そう。
だから、寿子は
洋服ダンスの中から
2~3着背広を選び
取り立て人の目を盗み
隣の家の庭に
思いっきり放り投げた。

投げた分は
見つかりさえしなければ
差し押さえられずに
済むからです。

―さすが、政治家の嫁
 機転が利く。

からくも倒産は免れたものの
マツモトキヨシは
地域に溶け込んで
商売していたお店。

「マツモトキヨシは危ない」と
いう噂が広がります。

―まさに悲観しても
 仕方ない状況。

ところが、清が
柏に5階建てのビルを
建てると言い出したのは
こうした最悪の時期でした。

「社長、正気ですか? 
いったいウチのどこに
そんな資金があるんですか?」
と幹部社員が声を荒げます。

「もちろん、カネなどない。
みんなも承知しているように
使いこみ事件のせいで
ウチの台所は火の車だ。

しかし、潰れそうだと
噂されているから
あえてやりたい。

千葉で一番高い
ビルを建てたら
マツモトキヨシ健在なりと
知らしめることにも
なるじゃないか!」

つづく

出典:『マツモトキヨシ伝 すぐやる課をつくった男』(樹林ゆう子、小学館、p51、pp.76-77)