こころの命 | 読書セラピー(幸せのページ)

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木に吹いた風が緑色になるように
花に吹いた風が芳香を運ぶように
風に言葉を託して届けます。

まだ雪をかぶっている
枯草の下から
はや生きいきと
芽吹いている命。

堅く凍りついたような
木の枝が
いつの間にか
少しずつふくれ来て
ほんのり紅をさす。

早春の野山には
生命の驚異が満ちている。

しかし、心の世界の春は
なお一層驚くべき現象が。

いま私は「春はめぐりぬ」
という文章を読み終え
感に打たれた。

著者の中木屋スミエさんは
全く目が見えず
耳も聞こえない。
原因は事故だった。

「狂いまわる
野獣のように」
苦悩した挙句
何とかして盲学校か
福祉施設に入りたい
と願う。

しかし十数ヵ所も
交渉したが空しく
どこでも断られた。

そして、ついに
「盲学校への入学が
叶えられた時
私のよころびは
たとえようがなかった。

これこそ失明後
12年間も求め
哀願し続けてきた
「第二の人生への鍵」
だったという。

言語に絶する努力の結果
いま彼女は
はり・きゅうの
治療家として
「自力で母子ふたりの
生計を維持し」ている。

その上、社会から
忘れられている人たちの
グループをつくり
雑誌を出し
福祉のための活動まで。

彼女は偏見の厚い殻を
自ら破りその下から
瑞々しいこころの命を
ほとばしり出したのだろう。

出典:『人間をみつめて』(神谷美恵子、みすず書房、pp.40-41)