前書きなしです。早速妄想劇場ど~ぞ~パーニコニコ



<天使と過ごした7日間 悪夢 Ⅴ>


「失礼します。こちらに石川瞳さんがいらっしゃると聞いてきたのですが・・・」


私を訪ねてきた品のいい中年の男女へ目を向けた。言葉を忘れ呆然としている私の代わりに松田が返事をした。


「石川瞳は彼女です」


と私を指さして答えた。中年の男女は私の方へ近づき、


「こんな状況の時に申し訳ありません。光隆の父です。こっちが母親です。看護士さんから倒れられたと聞きましたが、大丈夫ですか?」


光隆の母親は良く見ると目を真っ赤にして泣き腫らした顔をしていた。父親は消沈した顔をしていたが気丈だ。どことなく光隆と似ている。光隆も歳を取るとこんな顔になるのかとぼんやりと思っていた。


「光隆から電話で石川さんのことは聞いていました。”結婚したい女性に廻り合いました。エジプトから帰ってきたら会ってもらいたい。とてもすばらしい女性です。”と言っておりました。親が言うのも変ですが光隆はとてもしっかりした子でした。冗談や遊びでそういうことを口にする子でもありません。光隆が選んだ女性なら間違いはないと信じてました。こんな形でお会いするとは私たちも思っていなくて、あなたには大変悲しい思いをさせてしまった光隆をどうか許してやって下さい」


と二人で頭を下げる。私はやっとのことで言葉を絞りだした。


「どうか頭が上げて下さい。そうですか。光隆はご両親に私のことを話してくれていたんですね」


涙がまた流れる。光隆の母親も涙を流して、病室にいる全員が嗚咽を堪えていた中、先ほどから毅然としていた父親が話しを続ける。


「今しか言えないのであえて辛いことを言いますが・・・どうか1日も早く不義理をした光隆のことは忘れて新しい幸せを見つけて下さい。光隆もきっとあなたの幸せを願っていると思います。光隆が選んだすばらしい女性にお会いできて良かったです。光隆が大変お世話になりました。光隆に代わりお礼申します。ありがとうございました」


そう言い終え、もう1度深々と頭を下げる光隆のご両親。やっぱりあの天使のような光隆を育ててくれたご両親だ。夜叉に変わった私の心を一瞬にして人間へと戻してくれた。頭を上げて病室を出て行こうとするご両親を慌てて引き止めた。


「待ってください。お願いがあります。光隆が私の幸せを願っているのなら、いつ新しい出会いを見つけて幸せになれるかは分かりませんが努力はします。ですから、ほんのひと欠片でいいですから光隆の骨を下さい。光隆の写真と一緒に。葬儀には行きません。とても耐えられなと思うので私のところへ送って下さい。お願いします。どうか、お願いします」


と先ほどのご両親と同じように頭を下げた。やはり答えたのは父親の方だった。


「光隆の骨を身近に置いておくといつまでも忘れることが出来ないんじゃないですか?辛さが増すだけです。それでもそう願うのですか?」


私は頭を上げてこれだけは譲れないと固く決心した顔をご両親に向けた。その私の真剣な目を見た父親も真っ直ぐ私の目を見て強くうなずき言った。


「あなたの目は力強い。きっと前を向いて生きていける人のようですね。さすが光隆が選んだ女性だ。分かりました。葬儀が終わったらお送りしましょう」


「ありがとうございます」


と私はまた深々と頭を下げてお礼を言った。光隆のご両親が病室を出て行った後に、美奈の方を振り向いた。


「さっきはごめんなさい。あなたが悪いなんて言った私はどうかしていたの。許して。この通りです」


と美奈にも頭を下げた。美奈が慌てて私に近づき、


「いいんです。私が瞳さんの立場だったらきっと同じことをしていたはずです。だから許してだなんて言わないで下さい。どうか頭を上げて下さい」


美奈の優しい言葉にも涙が滲んだ。頭を上げて美奈の顔を見た。そして、二人で抱き合い光隆を想い声を上げて泣いた。松田はそんな私たちを黙って見守っていた。美奈から体を離し、


「もう1度、光隆の顔を見て来ていいかな?」


「大丈夫ですか?」


と心配する美奈。松田も心配そうな顔で、


「俺、一緒に行こうか?」


「いい。一人で行かせて。もう倒れたりしないから。二人きりで最後のお別れをさせて」


心配する二人を残し病室を出た。光隆のいる冷たい地下へと階段を下りて最後のお別れをしに行く。廊下を歩き、1番奥の鉄のドアを開ける。光隆が私を待っていた。顔に掛かった布を取り光隆の顔に触れる。優しく微笑んでいるような穏やかな顔で寝ている。


「光隆、光隆は本物の天使だったんだろうね。神様がほんの一瞬、私に幸せな夢を見せてくれたんでしょ?誰も信じてくれないけど、さっきの光隆も本物よね?本当に私に会いに来てくれたんだよね?最後に私に会いに来るために神様に時間の猶予を貰ったんでしょ?光隆が言った言葉はそういう意味だったんでしょ?まったくさ、幽霊?生霊?どっちか分からないけど料理までしっかり食べちゃってさ、光隆らしいよね。でも、会いたいと思ってくれたんだよね?ありがとう。幸せな7日間だったよ。ねぇ、光隆が居なくて寂しい時はどうやって過ごせばいいいのかな?・・・しばらくは泣いて何も出来ないかも知れないけど、頑張るからちゃんと見ててね。いつかまた会えるよね?だって光隆言ってたでしょ?すぐ可愛い天使に会えるよ!って。時間なんてあっという間とういう意味なの?私がそっちに行くまでちゃんと待っていてよね?光隆?返事してよ~、幽霊でもいいからさ~、お願いだから返事してよ~」


泣きながらしばらく光隆の体を抱き締めて離れられなかった。もしかしたら息を吹き返して光隆の手が私の頭を撫でてくれる奇跡を待った。


何も起こらない。もう神様の元へ帰ってしまったのだろうか。私も連いて行きたい。今すぐに。でも、私は私の場所へ行かなきゃ。これ以上ここで光隆の顔を見ていたら前向きに生きる決心が揺らぐ。このまま一緒に神様の所へ行きそうになる。涙を手の甲で無造作に拭った。


「光隆、またね。また会おうね」


”さよなら”なんて絶対に言わない。また会える。そんな気がした。いいえ、気がするんじゃなくて、何故かは分からないが確信していた。また、すぐに天使に会える。だから、光隆、またね。静かにドアを閉めて私が行くべき地上へと階段を昇った。



                  つづく



今日はここまで~。次回は「変化」の章です。



皆様、おやすみなさい。いい夢を星空