大会が始まる前は、清宮幸太郎率いる早稲田実業が西東京大会の決勝で東海大菅生に負けたことによって「主役不在」が取りざたされた今大会。
しかし、大会の主役となるべき選手がいない、と嘆きつつも今年も甲子園のスター、というものがしっかりと現れ、記録にも記憶にも残るプレイヤーとして甲子園の歴史にその名を残した。
彼の名は広島の名門、広陵高校の「3番、捕手」中村奨成。
もともと捕手としての能力は非常に高く、特に大学、社会人を含めてもNo.1ともいわれる強肩を武器にドラフト候補に名は連ねてはいたけれど、入学してから2年間は広島新庄の壁に阻まれ、甲子園出場経験がなかったことから「知る人ぞ知る」存在でしかなく、地区予選でも死球を受けた影響から打撃成績も振るわなかった。
ところが甲子園に来てから猛打爆発。
しかも対戦相手が初戦から中京大中京、秀岳館、聖光学院、仙台育英、天理と高校野球ではすっかりおなじみの強豪校相手に打ちまくったものだから一気にその評価は急上昇。準決勝の天理戦で清原和博(PL学園)が持っていた1大会5本塁打の大会記録を32年ぶりに更新する6本塁打を打った瞬間には甲子園球場が「中村フィーバー」と言ってもいいぐらいに熱狂。かつて高校レベルでは好投手と言われてはいても今一つ地味な存在だった斎藤佑樹が2回戦の大阪桐蔭戦で主砲の2年生、中田翔から3三振を奪ってから一気ににスターダムにのし上がり、去年は地区予選では控え投手だったのが甲子園で急激な成長を遂げ、終わってみれば甲子園優勝投手に輝いた作新学院の今井達也の出現と同じ光景がまた今年も生まれた。
これで広陵が夏の甲子園大会初優勝、なんてことになったら今年の夏の甲子園はそれこそ、
「中村奨成の、中村奨成による、中村奨成のための甲子園」
になっていたところだけれど、その辺はさすがに地元広島でも「春の広陵、夏の広商(広島商)」と呼ばれるほど、夏に勝ちきれないイメージが付きまとうのが広陵というチーム。初戦から準決勝まで甲子園常連校相手に強力打線が打ちまくって勝ち上がっては来たものの、花咲徳栄との決勝は中村と同様ドラフト候補に上がっているものの今大会は今一つピリッとしなかったエースの平元銀次郎をはじめとする投手陣がこれまた花咲徳栄の強力打線に打ち込まれ、終わってみれば4-14と大敗。花咲徳栄が初の全国制覇&埼玉県勢初の夏の選手権大会優勝を果たすこととなり、広陵は4度目の決勝進出も悲願の初優勝はならず。「春の広陵」のイメージは今年も払拭されなかった。
そんなわけで今大会の活躍で「ドラフト候補」どころか「複数球団競合必至のドラフト1位候補」に名乗りを上げた中村の捕手としての評価は大学、社会人を含めてもNo.1とも言われており、日本球界自体が極度の捕手の人材難に悩まされていることもあって今大会の活躍によって「打てる捕手」という評価がつきつつあることから地元の広島をはじめ、捕手難に悩んでいる球団にとっては是が非でも欲しい存在。
しかし、かつての清原や松井秀喜のように1年目から打撃面でバリバリ活躍できるかどうか、ということになるとおそらく「No」という返事が返ってくると思う。まあ、高校野球が金属バット使用であるということ、特に今大会は「飛ぶボール」の使用が疑われるほど「投低打高」の大会だということから今大会の打撃成績については割引いて考えた方がいいだろうし、評価が高い捕手としての能力についてもアマチュアNo.1捕手の名を引っ提げてプロ野球の門を叩いた捕手であってもプロの投手が投げるボールをまともにキャッチできないケースもあり、現時点で過大な評価はできない。それこそかつての谷繁元信や城島健司のように首脳陣が辛抱して起用し続けられるかも大きなカギ。
本人がプロ入りを表明(正確にはプロ志望届を提出した時点でドラフト指名対象となる)をしている以上、あと2か月もすればドラフト会議で次の進路が決まる。
我が国の「アホ」スポーツマスコミが無理やり作り上げた「上げ底のヒーロー」で終わるのか。
それとも球界を代表する捕手となるのか。
一歩引いたところから見守ろうと思う。