ここまでセンバツ21世紀枠について話してきましたが、どんなに他の出場校と比較して実力差があろうが、選考過程に問題山積していようが、
…高野連が21世紀枠を廃止することはおそらくないでしょう。
なぜなら全国4000校以上の高野連加盟校のうち3500校は甲子園とは無縁のごく普通の高校生が集まった学校のクラブ活動でしかない。
そして観客のほとんどはごくごく一般的な人間であり、そういった普通の高校生たちが甲子園を目指している姿そのものにドラマを見い出す。
一方で高校野球は一種の興行であり、NHKや中継局にとっては確実に視聴率が見込めるキラーコンテンツでもあります。
となれば何らかの形で観客が感情移入するための舞台装置、というのはどうしても必要になります。野球学校に通う野球がうまい子だけでなく、地元の学校に通っているごく普通の高校生でも活躍できる可能性があるドラマがあった方がより多くの観客を引き付けられる。
そしてもう1つ、21世紀枠があることで高野連は各地区ごとの「出場枠」に関する問題を「痛み分け」という形で解決したのではないか、と考えております。
センバツ出場校が32校に拡大されてからの出場枠は一般選考枠28、神宮大会枠1、21世紀枠3となっています。なお神宮大会枠は秋の神宮大会で優勝した学校が所属する地区に通常の出場校枠に1校分プラスするものであり、21世紀枠は事前に47都道府県から選出された21世紀候補枠から最初に各地区代表として9校を選出し、その後その9校を東日本と西日本に分けてそれぞれ1校ずつ選出し、残り1校は地区割りに関係なく各地区代表の残り7校から選出するシステムとなっています。
そして一般選考枠の28校の内訳は、というと、北海道1、東北2、関東・東京6、東海2、北信越2、近畿6、中国・四国5、九州4となっております。
近畿以西の一般選考枠が約半数を占める理由は昔の高校野球が近畿、中国、四国に野球名門校が多く、出場すればほぼ上位進出していた典型的な「西高東低」だったところに由来します。
ところが、最近では全国の野球私学によるスカウティングや野球留学が当たり前になり、以前であれば地元の野球名門校に集まっていた野球少年たちがより確実に甲子園に行くために地方にある野球私学に進学するケースが増えてきました。東北や北陸といった一昔前は野球後進県と言われてきた地域も彼らの進学に伴ってレベルが上がり、それが地元の少年たちの刺激となって県全体のレベルアップにつながってきた側面は否めない。
しかしそのおかげでセンバツの出場枠に関する問題をややこしいものにしました。
そもそもセンバツの出場枠自体、その年の地区ごとのレベルや出場校数と比例している訳ではなく、過去の大会成績をもとにして慣例的に決まってきたもの。もし仮に今21世紀枠を全廃しよう、なんて話になったらまず出場枠の枠組みを決めるだけで大混乱になるでしょう。
まず出場校数は大会スケジュール上やたらめったら増やす訳にはいかない。
現在一県一代表制を採用している夏の選手権大会と違い、センバツは地区代表として複数代表制が認められている。夏の選手権大会が高校3年間の集大成とするなら、春のセンバツはまだ成長過程の段階で行われる大会ですから、その年の都道府県のレベルによっては全国トップクラスの実力を持った学校が同時に何校も出現する可能性がある。大阪桐蔭と履正社の大阪勢同士の決勝となり、2校出場した都道府県が9つもあった今年のセンバツがいい例でしょう。
そんな実例がありますから、仮に21世紀枠を一般選考枠に振り替えようとすると確実に奪い合いになる。特にレベルアップが著しい地区、特に野球後進地域として出場枠を抑えられてきた東北、北信越あたりが出場枠を増やすように要望するでしょう。
しかし、絶対的な出場校数を増やすことはできないので、ある地区の出場枠を増やすためには別の地区の出場枠を減らさなければならない。当然、削減対象となった地区の高野連は猛反発するでしょうし、特に21世紀枠導入によって出場枠を減らされた東海、近畿、中国・四国だってここぞとばかり増枠を求めるでしょう。長年の慣習が利害関係となり、それぞれのエゴばぶつかり合う内容についてまともに議論になるか、といえばまず無理でしょう。
しかし、もしここで「高校野球は教育の一環」という建前を持ち出し、条件次第で獲得できる流動的な出場枠をあらかじめ設定したとしたらどうでしょう。彼らとしても表立って自分たちのエゴを剥き出しにすることはできませんし、「痛み分け」ですから反対派を納得させることもできる。さらに野球私学ばかりが跳梁跋扈する現在の高校野球にある種のノスタルジーを持ち込むことができる。彼らにとってはある意味いいことずくめなんですよね。
そして一方の球児たちにとっても野球私学に進学しなくても甲子園を目指せる、というモデルケースがあることは決して悪いことではない。野球というスポーツが一部の特別な人間だけのものではなく、クラブ活動の延長線上として誰でもプレーすることが可能なものであれば結果的に野球人口の裾野を広げることができる。今の高校野球はある意味危機的な状況にあるので、21世紀枠のようなものがないとむしろますますおかしな方向に進むような気がしてならない。
だから私は21世紀枠の廃止には大反対。とはいえ、さすがにこれ以上増やすのはどうかとは思いますが。
今年のセンバツは今や高校野球の頂点に立つ大阪桐蔭が履正社との大阪決戦を制して幕を閉じました。
しかし、夏の選手権大会への戦いは始まったばかり。どんな大会になるのか楽しみにしつつこの文章を締めようと思います。