前回までのあらすじ
郵便物を投函すれば宛先が破滅する、謎のポストに心を奪われた「私」。本来の正義感から離れて、個人的な恨みを晴らす日々を送る「私」に起こった悲劇とは…
何故…
何故、私のいとこが私の恋人の部屋にいたのだろうか…
そして、あの親密な雰囲気は…
お互いに好意を抱いているのが…感じ取れてしまった。
降り始めた雨を確かめた いとこは持っていた傘を開いた。
一本の傘の下、身を寄せ合うようにふたりは歩いていったのだ。
いとこは、性格だけではなく頭も姿もいい…私よりも、ずっと。
だから叔母が海外に移住を決めた時、私は嬉しかったのだ…
子供の頃から、ずっと いとこと比べられた煩わしい日々から解放されるのが嬉しかったのだ…なのに
今になって私の恋人まで奪うというのか…
衝撃のあまり、頭の中で鐘のような音が鳴り続けている。
どれほどの間、その場に立ち尽くしていただろう。
マンションのエントランスに人の気配が…
いとこを駅まで送っていったであろう、恋人が戻ってきたのだ。
恋人は私の姿を見て驚いていた。
何をしに来たのか問う恋人に、私は いとことはそういう関係なのか詰め寄った。
しかし、恋人は答える代わりに私から目を背け、「あなたは変わってしまった。」と呟いた。名前ではなく、「あなた」と呼んだのだ。そして…
「最近は特に、一緒にいてもどこか遠くを見ているようだった。」とも言われた。
私のいとことはボランティアで知り合ったという。
自らがクーデターで国を失ったのにも関わらず、困っている人の役に立ちたいという いとこの優しさに触れて、心が洗われたような気持ちになれたと言う恋人。
私との別離は心に決めているようだった。
まだ何もないけれど特別な人なのだと、いとこへの思いを告げる恋人。
そう…5年間付き合った恋人の心はもう、私の側にはないのだ。
全てを知った私は、恋人に背を向けて無言のまま歩み去った。
いとこは何も悪くないのだ、という…恋人だった人の声を背に。
激しく降りしきる雨の中、私は声を殺して泣きながら歩いた。
燃え盛るような怒りを胸に…
今こそ、本当にあのポストを私のために役立てる時が来たのだ。
いとこ宛てに綴るのは、季節の便り。
恋人を奪われた憎しみを込めて、いつもよりも更に丁寧な文字で筆を進める。
今まで、会社や施設を破滅させたことは何度もあるが、個人に宛てて郵便物を出すのは初めてだった。
その結果を知るのが待ち遠しくてたまらない。
恋人を失ったことより、私の興味は いとこの運命がどう変わるかに占められていたのだ。
叔母の顔が心に浮かびもしたが、それよりも憎しみと好奇心が勝っていた。
…気づくと、今日は金曜日の午後。
外は雨模様だった。
あのポストは土日の回収がない。
さすがに今日はもう回収は終わっているだろうから投函するのは明日にしようと思い、宛名書きを残すのみとなったハガキを置いて、食品を買うために出掛けることにする。
投函を急ぐ必要はないのだ。
天候とは違い、実に晴れやかな気分で私がマンションの外に出ると、郵便回収車とすれ違った。
…この車が、あのポストの郵便を集めているのか。
引かれるように、私は車の後を追う。
件のポストの前に停めた車から降りた局員が、ポストの鍵を開けようとした、その時…
見覚えのある傘だった。…あれは
傘をさした人影が滑るようにポストに近寄り、局員と言葉を交わす。小さな笑い声。
…週末を見計らって、郵便物が回収される直前にあのポストに投函しにきたというのか。
振り返って私の姿を確かめた いとこの、奇妙に歪んだ満面の笑みが、私を凍り付かせる。
fin
恐怖小説です
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